領域を越えて、スピード感のある進化を遂げたい
―外科二講座の特色は。
当科を構成する心臓血管外科・静脈外科、呼吸器外科、形成外科の三つのグループに共通しているのは、「光」と深い関わりがあるということでしょう。今、近赤外線の臨床への活用を進めています。
本学の循環制御学教室(第二生理学)の佐藤隆幸教授が、近赤外線を使って体の中を可視化する技術の研究に取り組まれています。
人体にインドシアニングリーンという薬剤を投与して近赤外線を照射。すると近赤外蛍光を発し、特殊なカメラで撮影することで、血管や血流などの動きをリアルタイムで捉えることができるシステムです。
例えば、心臓の冠動脈バイパス手術でグラフトがちゃんと結合しているかどうか、従来は放射線画像法によって体内を可視化し、確認する方法がとられてきました。しかし、放射線管理区域でない手術室内ではできませんし、患者さんの身体的な負担という面でも、回数を限定せざるをえませんでした。
近赤外線を使ったシステムなら手術中のイメージングが可能で、被ばくの心配もありませんから、何度でも実施できます。より確実かつ安全な状況下で、しかも早く手術を終えることができるのです。
本学では近赤外線を活用したさまざまなデバイスの開発に取り組んでおり、今年の春頃には、新たに研究センターを開設する予定です。
私自身も、1997年ごろから近赤外線分光法という成分の測定方法の研究を始め、心臓血管外科でルーチンで用いてきた手法を形成外科の遊離空腸や遊離皮弁で応用してきました。おそらく、これは日本で初めての試みだったのではないかと思います。
このように異なる領域の技術を積極的に取り入れているのが、当科の最大の特徴です。
やはり、せまい場所であれこれとやっていても、広がりは望めません。基礎研究と臨床研究をつなぐトランスレーショナルリサーチが注目されていますが、一方で臨床研究間でのコラボレーションには消極的な風潮があるのではないかと感じます。
壁を取り払い、互いの枝を接ぎ木したらもっと美しい花が咲くかもしれない。そんな気持ちを大切にしています。
―新専門医制度を前に21の病院群による外科専門研修プログラムが始まりました。
これから外科医の道を歩もうとしている人には、幅広い知識、経験を基盤とした医療の実践が必須ではないかと思います。外科手技を高めていくばかりでは、患者さんのニーズに応えられる医師にはなれないでしょう。
新たな専門医制度への移行に向けて、私が統括責任者となって試行的に「高知家外科専門医育成プログラム」を始動させました。
高知県内の21の病院を研修連携施設として構成し、初期臨床研修修了後の3年間で各施設をローテーションしていくスケジュールを組んでいます。
モデルの一例として、1年目は高知大学医学部附属病院に所属し、2年目は高知市内にある中核病院、3年目は県の西か東に位置する拠点病院で修練し、その間に派遣の形で周辺の中小病院に行ってさらに経験を増やします。多彩で偏りのない研修によって、医師としての広範なベースづくりにつながることを期待しています。
2011年に私がこの大学に赴任してきた当時、他の病院から「人手が足りない。外科医を派遣してほしい」という懇願に近い要請が度々ありました。
しかし、大学の卒業生が毎年20〜30人ほどしか県内に残らない状況が続いていましたから、なかなか応じることができなかったのです。とにかく人が残るような仕組みをつくらなければ。そう、強く感じました。
そんな危機感は学生たちにもあって、ちょうどその時期、高知に理想の研修環境をつくって人を集めることを目的にした研修医の団体「コーチレジ」が生まれました。
私が卒後臨床研修センター(現:医療人育成支援センター)のセンター長に就任したり、臨床推論のサークル「ACT│K」の顧問を務めていたりしたことから彼らの活動にも携わるようになり、少しずつ高知に残る選択をする卒業生が増えていきました。
現在では60人ほどが県内で研修する流れができ、続々といろんな教室に入局しています。それでようやく、医師の派遣にも力を入れることができるようになってきました。
こうしてさまざまな病院間で医師の行き来が増加した上で、「専門医の育成についても、一緒に何かやってみませんか」と声をかけたところ、21病院が快諾してくれたというわけです。
―学会を含め、今後の活動に向けて。
まず学会については、6月30日(金)・7月1日(土)の2日間で開催する第110回日本循環器学会中国・四国合同地方会の会長を務めます。
教育講演の一つは、熊本大学の掃本誠治准教授による「大震災と循環器診療」。あのとき何が起こって、どのようなことに困ったのか、どう行動しておけばよかったのかなどをお聞きする予定です。
心臓血管研究所付属病院の國原孝心臓血管外科部長には、人工弁を使わずに弁の機能を取り戻す「大動脈弁形成術」についてご講演いただきます。全体としてはできるだけみなさんに発言していただける機会を設け、参加を実感できるような会にしたいと考えています。
引き続き若手を集める取り組みに力を入れつつ、研究プロジェクトも大きく伸ばしていくつもりです。近赤外線関連のほか、呼吸器外科では、患者さんの感受性によって抗がん剤を使い分ける研究が進行しています。
また、高知県下で3番目となるハイブリッド手術室が完成し、4月から稼働します。心臓血管外科、脳神経外科、呼吸器外科、循環器内科など領域を横断しての活用がコンセプトで、近赤外線、エコー、放射線など、従来とは異なる装置の組み合わせも当学独自のものです。
5年後にこの環境を振り返ったとき、「まだこんなことしかできなかったのか」と感じるほど、手応えがある。そんなスピード感で進化を遂げていけたらと思っています。