いのちと心を大切に 急性期と介護の橋渡し
1989年、民間病院を買収し、岡山医療生活協同組合の南部拠点病院として診療を開始した岡山東中央病院。2003年には医療療養型病院となり、関連病院や診療所、施設との連携によって地域の高齢者を総合的にサポートしてきた。眞鍋良二院長に話を聞いた。
―医療生活協同組合での勤務が34年になります。
34年前に岡山大学医学部を卒業してすぐ、消化器内科医として岡山協立病院に入り、16年間勤めました。その後は、在宅支援をする、みんなの診療所(岡山市)の所長を務め、香川医療生活協同組合高松平和病院で内科医として勤務しました。
当院に赴任して今年で6年目。現在は、院長としての仕事に力を注ぎながら、肝疾患を中心とした消化器疾患を診る内科医として診療も続けています。
当院は開院当初、一般病院でした。しかし、ここから3kmほど離れた場所にある総合病院の岡山協立病院と役割を分担することになり、2003年から医療療養型の病院として診療することになりました。現在は、「地域に根を張った病院」として、高齢者医療、健診を中心とした保健活動などに取り組んでいます。
さらに、岡山医療生協組合が設立に積極的にかかわった「社会福祉法人岡山中央福祉会」には、特別養護老人施設、介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅、居宅介護支援事業所など八つの事業所があります。私は同社会福祉法人の理事も務めていますので、病院と同法人の施設との連携を取りながら、慢性期から介護までの橋渡し役として地域医療を支えていきたいと考えています。
また、岡山県は岡山大学出身の医師が多くいます。横のつながりが強く、みんな仲が良いので、地域における医療連携がとてもスムーズです。
―慢性期・終末期医療の在り方について。
みんなの診療所の所長をしているとき、岡山大学法学部第二部法学科(現夜間主コース)を卒業しました。法律家の先生方と「安楽死」「尊厳死」「医療行為とは何か」など、医療訴訟に関わる法的な問題について多くのことを学んだので、慢性期・終末期に対する考え方は一般的な医師とは少し違うかもしれません。
近年、「死生観」の変化によって、胃ろうなどの延命措置を望まない人が増えてきました。終末期医療に対する考え方が大きく変化しているのだと思います。
現在の終末期患者の大半を占める80代の方たちは戦前生まれ。自分の意見を主張することは少なく、医者や家族など周りの意見に従う方が多い傾向にあります。しかし、これから終末期を迎える団塊の世代になると、「リビングウイル(尊厳死の宣言書)」を準備されるなど、自分の最期は自分で決める方が多数です。
終末期の患者さんのご家族はよく「延命治療はいらない」と言われます。しかし、そこで言われている延命治療は「無益な延命治療」のことで、医師は、それを十分説明する必要がありますし、患者さんやご家族も、そこのところを理解した上で判断していただきたいですね。
職員たちの中にも「病院は患者さんの病気を治して自宅に帰す場所」という意識がまだまだ強い。しかし、医療療養型病院は、施設では対応できない疾患を抱えた方たちを受け入れる場所です。病気が完全に治って元気な状態に戻られるわけではなく、病気を抱えたまま病院で過ごされる方も多いので、患者さんにとっては自宅に帰ることが必ずしもベストな選択だとは限りません。本人にとって一番居心地の良い場所はどこなのかが重要なのです。
本来、医療というものは患者本人の問題です。人によって考え方はさまざまですが、基本的には患者自身の意思が尊重されるべきではないでしょうか。
―医療安全に対する取り組みを教えてください。
岡山医療生協組合全体で取り組んでおり、当院でも特に力を入れています。当院は医療療養病床20対1で、急性期病床7対1に比べると約3分の1しか看護師がいないため、人手不足の面からみてもミスが起きやすい環境にあるからです。
安全であるということは医療の質の向上につながりますので「人は必ずミスをする」ことを前提に、ミスが起こらないシステムを構築しているところです。
例えば、インスリン一つとってみても、たくさんの種類があります。あまりに種類が多すぎると間違いの原因になるため、インスリンの種類を最低限に抑えています。もちろん、薬の種類を減らすときは、治療の質を落とさないようにすることも大切です。
薬の種類だけでなく、院内のさまざまな作業や備品などを可能な限り簡素化することで、ミスの危険性をゼロに近づけたいと考えています。
―今後の課題と展望は。
厚生労働省が今後どのような医療計画を進めていくのか先が読みにくい状況ですが、一般の人が困るようなことにはなってほしくないですね。
もともと急性期と慢性期しかなかった医療に途中から亜急性期ができたために、それまで慢性期で担ってきた医療行為の一部が亜急性期に移りました。さらに、介護職がトレーニングを受ければ吸痰(たん)などの医療行為ができるようになったことで、慢性期病院でなければ受け入れられなかった患者さんを介護施設でも受け入れられるようにもなりました。慢性期医療の範囲がどんどん狭くなってきていると思います。
当院の病床数は128床です。近ごろは入院患者の確保が難しくなってきました。建物もずいぶん古くなりましたので、建て替えも検討しなければいけません。
今は高齢者が増えていますが、おそらく20年後くらいからは減ってくるでしょう。その辺も含めて長期経営計画を立てる必要があります。国の医療政策にも対応できる病院の在り方を考えていきたいですね。
岡山医療生活協同組合 岡山東中央病院
岡山市中区倉田677-1
TEL:086-276-3711(代表)
http://www.okayama-health.coop/index/division/higashi.html