開設から40年次の40年を見据えて循環器医療の未来を支える
1977(昭和52)年に国内で2番目のナショナルセンターとして開設された国立循環器病研究センター(以下、国循)は、今年40周年を迎える。国内はもちろん世界レベルで循環器医療をリードする国循は、2019年、新築移転する。国循と吹田市民病院、および関連施設がJR岸辺駅に隣接して建設される「北大阪健康医療都市(通称:健都)」は、全国的にも注目を集めるプロジェクトだ。峰松一夫病院長に話を聞いた。
―歴史や特徴を教えてください。
国循は、現在国内に6カ所あるナショナルセンター(国立高度専門医療センター)の一つで、国立がん研究センター(東京都)に次いで古い歴史を持ちます。
当時、国内では脳卒中や心不全などの循環器疾患は、がんを凌ぐ国民の死因であり、その治療は医療界にとっても重要な課題でした。このため、日本循環器学会を中心に「がんセンターが東京にあるなら循環器病センターは大阪に」と働きかけ、開設に至りました。
国循の目的は国民の健康を支えるための「循環器疾患の究明と制圧」です。現在、国循は「病院」「研究所」「研究開発基盤センター」の三つの機関からなりたっています。
病院では循環器疾患の超急性期から慢性期まで幅広く扱い、最先端の医療に取り組んでいます。設立当初からSCU(脳卒中集中治療室)を設置し、24時間体制で対応することで、循環器疾患による死亡率を大幅に引き下げました。現在、SCUは年間1200から1300例の入院実績を挙げています。
研究所では、臨床への応用も含め、さまざまな研究に取り組んでいます。なかでも、寒川賢治研究所長は、「生理活性ペプチド」の研究で世界的にも知られており、ノーベル賞候補の一人として挙げられています。
研究開発基盤センターは、臨床と研究所の橋渡し役となり、研究開発基盤の整備や治験、臨床試験、知的資産を管理する役割を担っています。
循環器疾患の原因の一つとしてあげられるのは高血圧。このため、塩分を控えた食生活は、循環器病の予防につながります。国循の調理師、管理栄養士らが考えただしを使った「かるしおレシピ」は、当院の入院食としても好評です。
そこで、国循発のかるしおレシピを複数の書籍にして出版しているほか、減塩された食品を「かるしおマーク認定制度」で普及させる活動などを行っています。これも研究開発基盤センターが中心になって進めています。
―昨年、病院長に就任されました。
私はもともと福岡出身です。九州大学を卒業し、完成から2年後の1979(昭和54)年に国循に来ました。
ですから、在籍して38年となり、創成期から現在に至るまでの歴史を知る数少ない人間になります。国循では、九州大学第二内科の先輩であり、国循病院長や総長を務められた尾前照雄・山口武典両先生の薫陶を受けました。
国循は、今年でちょうど40周年。記念行事や祝賀会などを計画しています。
また、吹田市、摂津市にまたがるJR岸辺駅周辺の約30haの敷地に一大医療コンプレックスを作るという「北大阪健康医療都市(通称:健都)」構想に参画します。
建設から40年。建物の老朽化などが進んでいることから、現在地での建て替え案もありました。
しかし、タイミングよくJR東海道線岸辺操車場跡地の売却話があったことから、同時期に建て替えを計画していた吹田市民病院と隣接して、新国循を建設することにしました。
新国循は昨年8月に着工し、計画では2019年に移転します。周辺には医療関連の企業などの誘致もあり、国循内にはOIC(オープンイノベーションセンター)が併設されるなど、国内には類を見ない大規模なプロジェクトです。
大阪市には日本一高いビル「あべのハルカス」がありますが、その高さは約300mです。ちょうどこれを横に倒したような規模の建物ですから、その大きさは想像以上でしょう。
国循では、循環器疾患に携わる人材育成に特に力をいれています。昨年は38期生のレジデント(後期研修医)を迎えました。レジデント、専門修練医は全国各地から集まり、これまで、約1900人を受け入れました。彼らが全国の医療機関に戻り、地域のけん引役として活躍するべく引き続き注力します。
最先端の術式など医療技術の確立にも力を入れます。1997年に臓器移植法が制定され、その2年後に心臓移植を行いました。大阪大学が1例目、次いで2例目が国循でした。その後、94例(1月26日現在)の実績があり、これは全国一です。今年の前半に100例を突破すると思います。40周年という記念の年に大きな節目を迎えることは感慨深いものがあります。
このほど、発表された脳卒中の死亡率(全国二次医療圏別・344カ所※)を見ると、国循のある豊能医療圏(吹田市ほか)は、男性が最も良い344位、女性も340位という結果でした。
これまで、国循が地域住民を巻き込んで進めてきた循環器病啓発や医療連携、長年にわたる地域住民の健診や追跡調査に基づく「吹田研究」への取り組みなどもこの結果につながったのかもしれません。このような循環器疾患に関する情報を発信することもわれわれの重要な役割ですね。
新国循開設にともなうさまざまなアイデアが出ていますが、われわれが、日本の循環器病の究明と研究のために、40年間取り組んできたことが土台の要になると思います。次の40年を見据えて、生まれ変わるような気持ちで頑張っていきたいと思います。
※出典:国際医療福祉大学大学院埴岡健一教授調査データ
国立研究開発法人 国立循環器病研究センター
大阪府吹田市藤白台5―7―1
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