膝疾患治療を続けて30年 若手の育成にも尽力
―病院の特徴は。
1960(昭和35)年、当院は三菱重工業の事業主病院として設立されました。現在は、名古屋地区にあるグループ企業の全社員、約1万人の健康維持に努めています。
ただ、病床数113床規模の病院ですので、すべての社員に対応することはできません。そのため、各地域に配置された8人の産業医と定期的に情報交換をしながら診療をしています。
外来には、内科、小児科、整形外科、外科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、泌尿器科と、ひと通りの診療科がそろっていて、腎臓病、膠原(こうげん)病の専門外来も設けています。
特徴的なのは小児科の「夜尿症外来」です。夜尿症を専門に診る小児科医は少ないようですが、当院では、先々代院長の岩間正文先生が週に2回、夜尿症の子どもさんを診ています。治療法を決めるために、週に1〜2人ずつ検査入院されている現状です。
また、岩間先生は現在、日本夜尿症学会の中心メンバーでもあります。同学会は、夜尿症の病態解明と診断・治療、そして、夜尿症に対する社会的な理解の推進などを目的とした世界初の学会です。
―膝関節手術の症例が県内最多と伺いました。
私の専門でもある整形外科では、スポーツ障害などに多い膝関節、肩関節の手術に力を入れています。私が赴任した当初は、医師が1人で患者さんも少なかったのですが、口コミで患者数が徐々に増え、医師の数も4人に増えました。
年間約700例の手術を実施していて、そのうち膝前十字靭帯(じんたい)再建術は約300例、半月板と靱帯の縫合術は計約100例です。
靱帯にかかわる手術法もずいぶん変わりました。例えば、以前は再建手術に人工靱帯が使われたこともありましたが、再断裂のリスクが高いことから、現在、当院では使っていません。自分の組織を用いて再建する「自家腱移植」という方法で、膝屈筋腱(ひざくっきんけん)、あるいは骨付き膝蓋腱(しつがいけん)による再建術を行っています。 近年、高齢者の増加にともない、人工関節置換術に対する需要も高まってきました。
2010年にクリーンルームができる以前は、年間わずか2例ほどだった症例数が、今では40例ほどに増えました。
また、副院長の黒河内和俊先生を中心に、肩の手術を年間50例ほど実施しており、肩関節の痛み、腕が上がらないなどの症状を来す「肩腱板(かたけんばん)断裂」の修復術や肩関節脱臼の治療などに取り組んでいます。
―若手の育成について。
当診療科には名古屋大学から医師を派遣していただいています。皆さん向上心があり、臨床だけでなく、学会や論文発表などにも積極的に取り組まれているようです。
1年目はとにかく人の手術を見て、2年目からは少しずつ自分の症例を増やし、3年目には実践的な診療に移ります。もともと骨折などの簡単な手術はこなせる先生たちですから、5年ほどすると、膝や肩の専門的な手術もできるようになります。
手術が年間200例ほどしかなかったころは、すべての医師が同じ手術を見ながら議論できる環境でした。しかし、年間約700例の手術を実施するようになった現状では、全員がすべての症例にかかわることは難しい。どうしても、一部分は自己判断になってしまいます。
情報共有のために、全員で早朝カンファレンスを行っていますが、それだけでは十分ではありません。ただ、本人たちにとってはいい勉強となり、やりがいも感じているようです。
近ごろは当院が、症例数が多く、経験を積むことができる病院として、やる気のある若い医師に選ばれるようになりました。人気があることは良いことですが、人数制限があるため、希望されても常勤医になっていただけないことが残念です。
―どうして整形外科医に。
整形外科医になったことに特別な理由はありませんが、スポーツ整形に興味を持ったのは、30年ほど前、UCLA(米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)に留学したことがきっかけです。
UCLAではスポーツが盛んで、オリンピック選手もたくさん在籍していました。整形外科領域の研究、技術、施設など、どれをとってみても先進的で、当時の日本のそれとは格段の差を感じたのです。中でも、スポーツ整形に必要な関節鏡治療に興味を持ち、本格的に取り組むことにしました。
―今後の展開は。
企業立病院として従業員の健康を守りながら、整形外科の専門性を高めていきたいですね。当院で対応することができるスポーツ整形分野の幅を広げ、より質の高い医療を提供できるように努力したいと思います。
また、療養病棟(45床)では、市内にある中京病院、中部ろうさい病院、名古屋大学医学部附属病院などからの患者さんを受け入れています。しかし、在宅復帰率や医療区分の規定がありますので、患者さんにはいずれ退院していただかなければなりません。患者さんを安心して任せられる転院先を確保するため、副院長の飯田将人先生が開業医の先生方の会合に出席して講演をするなどしながら、地域連携の強化を図っているところです。
将来的には、医師やメディカルスタッフを必要数確保し、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟などもつくっていきたいと考えています。
―院長職と整形外科医の両立は大変なのでは。
人生はハッピーでないといけません。たとえ残業したとしても、睡眠時間が減ったとしても、私は自分の好きな診療・手術をやっているため、まったく苦にはなりません。自分がやったことが患者さんにも喜んでいただけます。
領域を問わず、医者の仕事は奥が深く、努力した分だけ知識も技術も確実に身に付くものです。そういう意味ではかなり面白い職業だと思います。
患者さんを救うために研究心を持って診療し、学会発表などで自分の知識を確かめる。そういうことが好きな人は、どの診療科を選んでも面白いのではないでしょうか。
三菱重工業 三菱名古屋病院
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