大分大学医学部消化器内科学講座 村上 和成 教授

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県内医療充実の先に目指すもの
大学をあげての国際医療貢献へ

【むらかみ・かずなり】 大分県立別府鶴見丘高校卒業 1983 広島大学医学部卒業 大分医科大学第二内科入局 1990 医学博士号取得 大分市医師会立アルメイダ病院消化器科 1991 大分医科大学第二内科助手 1996 米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)留学 1997 大分医科大学第二内科講師 2004 大分大学医学部附属病院総合診療部助教授 2011 同内視鏡診療部部長 2013 大分大学医学部消化器内科学講座教授 2016 同附属病院副病院長

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―大分大学医学部附属病院は、「ピロリ菌」(ヘリコバクター・ピロリ)の検査や除菌について定評があります。

 ピロリ菌除菌治療の保険適用が慢性胃炎まで拡大されて、もうすぐ4年になります。除菌治療が普及した結果として胃潰瘍や十二指腸潰瘍は明らかに減っており、胃がんについても除菌による抑制効果が明らかになってきました。

 しかし、除菌をしたからといって「絶対に胃がんにならない」とは断言できません。危険なのは、除菌で安心して定期的な検査を怠り、胃がんを見落としてしまうことです。ただ、除菌によって、定期検査の間隔が1年だったものを2年おきくらいまで延ばすことができるかもしれません。

 ピロリ菌の存在を診断する方法は複数あります。たとえば胃の組織を採取して粘膜にピロリ菌がいないか顕微鏡で見る。菌の培養も菌の検出には効果がありますが、結果を100%保証できる診断法はまだありません。どのような方法を用いるにせよ、正確かつ患者さんにとって負担が少なく楽にできたほうがいいのは間違いありません。こういったものが今後の臨床研究テーマのひとつになると思います。

―大分県内の医療をどのように支えますか。

 県内唯一の医師養成機関として、医師の派遣機能が期待されていると思います。私は医学部附属病院の副病院長も兼任していますので、まずは多くの卒業生に大学に残ってもらい、良い医師を育てて大分県全体の医療を充実させるのが大きな方針になります。そのなかでも消化器内科を選んでくれた方については、とくにしっかりと育てる責任があると考えています。

 というのも、消化器内科分野は広い領域を扱いますので患者さんの数が一番多いんですね。勉強しなければならないことも非常に多い。都会の大学だと消化器内科の中でも細かく専攻を分けて医師を養成しますが、本学では「総合」消化器内科医、いわば「なんでもできる消化器内科医」を育てています。

 消化器内科で扱う部位は、食道、胃、腸の消化管と肝臓、すい臓、胆道系など多岐にわたります。それらを細分化せずに、どの部分でも扱える消化器内科医を育てなければ、地域医療への貢献にはならないのです。

 もっとも、現在の医学が発展するペースをみていると、1人の医師がすべての分野を広くかつ深い部分まで網羅することは不可能だと思います。総合診療医の需要が増しているという事情はあるものの、やはり細分化、専門化という流れはとめられないでしょう。

 せめて消化器内科分野においてはどんなものであっても対応できる、それが、私が考えるゼネラリストのイメージですね。

―教授に就任されて4年目に入りますね。

 今年59歳になりますが、個人的には第一線の医師として働くことよりも、むしろ第一線の医師や研究者を育てることに力を注ぐべきだろうと考えています。

 現在、80人以上の医局員が所属していますが、私が一番気にかけているのは、彼らが日々充実して過ごしているかどうかということです。さらに、将来にわたって彼らが楽しく仕事をし、プライベートでも充実しているかどうか、最近はとくにそういったことが気になります。結局、それこそが生きる目的ですからね。

 私自身は、さまざまな学会で責任あるポジションに就くようになり、自分の医局だけを見ていてもだめだと感じています。もちろん、自分の病院や県内の医療について考えることは大事なのですが、その先に全国を見ながら、世界の中で日本が果たす役割まで考えるという大局観を持つべきだと思います。

 そうなると、やらなければいけないことがたくさんあり、考えるべきことは山積みですので、あと7年間は全力疾走していきたいと思います。

 実現可能性の高いものから手をつけていくとすれば、まずは医局の充実こそが県内医療の充実につながるでしょう。

 さらに、九州の内視鏡学会の支部長をしていますので、視野を九州まで広げて内視鏡分野の充実した医療を提供していきたいですね。

―大分大学は医療の国際貢献において存在感を増しています。

 本学の北野正剛学長は素晴らしいバイタリティーを持たれた先生です。現在は、「日本の医療を世界に」という目標を掲げて精力的に動かれています。

 たとえば、昨年まで3年間にわたり経済産業省の支援を得て、ベトナムと医療面での交流を行いました。ベトナムの医療をレベルアップさせるのが目的で、主に内視鏡での診断や治療についてベトナム人医師の研修を実施しました。

 胃がんの発見から内視鏡治療までをお互いに行き来しながらトレーニングしましたが、いまではかなり上達しています。現在ベトナムで内視鏡を扱える医師のほとんどと顔見知りになっており、彼らが指導のできる上級の医師になり後進を育てることで、ベトナムで内視鏡を扱える医師が増えていくことに期待しています。

 これまで日本が国際的な医療支援で目を向けてきたのは東南アジア全域ですが、今後はロシアも加わると思います。

 昨年、山口県で安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領と会談しましたが、その際に安倍首相はロシアに対する医療援助を明言しています。とくにがん医療については発見から治療に至るまで日本の医療援助を約束しており、そのなかでも内視鏡治療は具体的な支援の一つの柱です。

 2月中には、われわれの教室員がモスクワに渡ることが決まっています。現地の病院を視察して、状況を把握すると同時になにがどれくらい足りないのかを見てくる予定です。ロシアには内視鏡を持たない病院も多いらしく、この分野についてはまだまだこれからといった印象です。

 日本では胃がんについては早期発見することで治せる病気になっていますが、ロシアではまだ致死性の恐ろしい病気という認識があるようです。これからはロシアへの医療支援が盛んになるかもしれません。

 大分大学はグローバル戦略に基づいた国際貢献を進めています。昨年は、本学が主導して「アジア内視鏡人材育成大学コンソーシアム」をスタートさせました。

 この組織はアジア地域の内視鏡分野の医療人育成を目的としており、北野学長を委員長に本学のほか、大阪大学、北里大学、九州大学、京都大学、近畿大学、慶應義塾大学、神戸大学、国際医療福祉大学、埼玉医科大学、帝京大学、東京大学、東京慈恵医科大学、東邦大学の計14大学が参加しています。

 大学として人材をスムーズに海外派遣できるような組織づくりも始めており、若手医師の育成の場としても有効に機能するでしょう。

 たいへんですが非常にやりがいがあることです。当教室の医局員も海外を体験することが増えましたので、週1回ネイティブスピーカーの方に来ていただく英会話のレッスンもすでに数年間続いています。

 さらに、インターネットを使った試みとしては、昨年とおととしの2回、本学とベトナムを九州大学の回線で結んで内視鏡ライブデモを行いました。

 早期胃がんの診断治療をしている場面をベトナムの五つの病院に流しながら実施したもので、今年も実施する予定です。九州大学大学院国際医療部の清水周次先生にご協力いただいています。

 こういった動きを考えると、現代において地理的なデメリットはほとんどないと思います。やる気と行動力さえあれば地方大学でもかなりのことができるという実例ではないでしょうか。

大分大学医学部消化器内科学講座
大分県由布市挾間町医大ケ丘1-1
TEL:097-549-4411(代表)
http://www.med.oita-u.ac.jp/shoukaki


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