「心の声」に耳を傾けて
1970(昭和45)年開設の福田病院。一般、療養、地域包括ケアの計113床を有し、介護老人保健施設やグループホームなど複数の関連施設もある。昨年4月に就任した福田秀一院長に話を聞いた。
―実家である福田病院に戻られてまもなく丸10年。目指す病院の姿は。
当法人の理念は「私たちはいつも、心の声に耳を傾けます」です。さらに、法人基本方針を定めています。
私が以前勤めていた病院では、外科医の私の休みは月に1日あるかないかという過酷さでした。緊急手術のための呼び出しも多く、当直の際も、一晩中対応に追われました。私だけでなくスタッフはみんな、疲弊していると感じていました。
そこで、私はこの病院に帰ってきたとき、患者さん、医師、看護師、スタッフみんなに優しく、医療面もサービス面も質の高い病院を目指したい、と思ったのです。その思いを、理念と基本方針に込めています。
―「心の声」を聞く方法は。
この病院には、もともと投書箱がありました。それを積極的に活用しています。
この病院に戻って間もないある日、患者さんから「心のうちを聞いてください」という、たったひと言の投書が入りました。聞いていたつもりでしたが、もっと真剣に患者さんの声に耳を傾けなければいけないと思いましたね。
そこで、投書の内容についてどう対処するか、誰が回答するのかなどを検討する「心の声委員会」を院内に作り、すべての投書に回答する取り組みを始めました。今も毎週、同委員会を開いています。さまざまな声に対処し、改善することで、患者さんからの苦情が減り、お褒めの言葉が増えていきました。
もう一つ始めたのが、患者さんからの評価収集です。玄関前に「あなたの声をお聞かせください」と張り紙を出し、0〜6点の「満足していない、不平不満がある」、7〜8点の「ある程度満足しているが、他の人に紹介しようとは思わない」、9〜10点の「福田病院を友達や家族に紹介してもよい」を選んで採点していただく方法です。
これによって患者さんからの評価スコア(NPS:Net Promoter Score)がわかるようになりました。当初はマイナスだったスコアが右肩上がりで伸びています。
患者さん向けの投書箱に職員からの投書が入っていたことをきっかけに、職員のための「Fポスト」も作りました。経営に関する不安やさまざまな意見、要望が寄せられています。
― 10年で改善したこと、新たに始めたことは。
まず週に1回の朝礼を参加型に変えました。患者さんからの評価スコアを職員に見せ、職員は2人1組になって1週間の目標を相手に発表する形です。
また「あいさつができていない」という声があったので、朝の外来開始時は、職員全員で患者さんにあいさつするようにしました。高齢者施設等から来院される車いす利用の患者さんの負担を減らすため、外来待ち時間を短縮する「ファストパス制度」も導入しています。
入院・外来の患者さんや地域の方向けのクリスマスコンサート、ボランティア清掃を始めたほか、看護実習や看護職を希望する高校生の体験授業も積極的に受け入れています。
ドクターヘリのランデブーポイント(場外離着陸場)として、当院の駐車場を大川市消防本部に自由に使っていただくようにもしました。消防本部に駐車場のゲートを上げるカードを渡しています。救急車が到着したら、ドクターヘリが到着するまでの間、私が車内で処置することもあります。
―院内の体制や制度も大きく変わってきたそうですね。
この病院に戻ってすぐ、電子カルテ、オーダーリングを導入し、5人ほどしかいなかった医師を11人に増員しました。すると経常利益が黒字から赤字に転落。職員から「病院が赤字だと聞きました。将来が不安です」という投書がくるほどでした。
当時は、「経営なんてそんなに難しいものではない」と思っていたんです。でも、一気に不安になりましたね。2009年、福岡県中小企業家同友会に入り、当法人の理念と基本方針を定めました。
さらに経営指針書の作成方法を教わり、病院に戻って実行。指針書を作るためには理念や方針を共有し、セクションごとに計画を練る必要があります。当初は批判的、無関心な職員もいましたね。しかし、実際に経営指針発表会を開いてみると、ものすごく盛り上がりました。今、私たちの法人にとって、とても重要な会になっています。
2010年には日本医療機能評価機構の病院機能評価を受審し、認定を受けました。受審前は、多くの職員が夜遅くまで準備をしてくれましたね。よくがんばってくれたと感謝しています。
病院機能評価受審という目標があったこと、「Fポスト」に職員からの意見もあったことから、人事考課制度の制定、院内保育所の開設、有休取得率の向上など、さまざまなことに取り組んできました。
10年近くかけて日本救急医学会認定のICLS救急セミナーができるようになったこともうれしかったですね。近隣の総合病院の看護師なども受講され、当院職員のスキルアップだけでなくモチベーションアップにもつながっていると実感しています。
―今後の目標は。
2020年までに新病院に移行したいと青写真を描いています。
この大川市の高齢化率は31.8%(2015年4月1日現在)。75歳以上の高齢者が占める割合を示す後期高齢化率は16.5%(同)に上ります。
高齢の方は、だんだんと通院するのも大変になってきます。よく冗談交じりに言われる「病院にくるのは元気な高齢者」ということを実感せざるを得ない状況です。そこで、新病院の上階には高齢者向けの住宅を造りたいという構想も持っています。高齢で医療を必要とする方が、安心して暮らすことができる住まいを、提供できたらと考えています。
また、病院名から「福田」を外したいという希望もあります。こんなことを言うと、周囲の方からは驚かれるのですが、公益性を求めていこうと思った時、そこにいつまでも個人名があるのはよくないと思うのです。
この病院は、ものすごい強みがある、特色がある病院ではないかもしれません。でも、地域の方からのニーズはある。今後も地域で受け入れられ、役割を果たしていくために、患者さんやご家族、職員、地域の方々、未来の人たち、そして自分自身の心の声に、耳を傾け続けていくつもりです。
経営理念
私たちはいつも、心の声に耳を傾けます。
法人基本方針
~私が考えていることが分かりますか?~
はい、あなたに最善の医療を行います。
はい、あなたが生きたい人生のお手伝いをします。
はい、あなたと共に歩みます。
~私が考えていることが分かりますか?~
はい、職場でのあなたの頑張りに応えます。
はい、あなたとあなたの家庭を笑顔にします。
はい、あなたの夢を叶えるお手伝いをします。
~私が考えていることが分かりますか?~
はい、あなたと私のこの街がより良くなるように努力します。
はい、あなたの活動をお手伝いします。
はい、あなたの安心の場所にします。
~私が考えていることが分かりますか?~
はい、医療法人としての使命を、これからも果たし続けます。
医療法人 福田病院
福岡県大川市向島1717-3
TEL:0944-87-5757
http://www.fukuda-hp.net