学科を新設、時代を先取りして進む大学改革
徳島市と香川県さぬき市にキャンパスを持つ徳島文理大学。四国地方を代表する私立大学であり、とくに薬学科は中四国地区の私立大学薬学部で最も長い歴史を持ち、8700人以上の薬剤師を輩出している。
就任から12年目を迎える桐野豊学長に、学科新設と大学教育のありかたについて聞いた。
―今年、保健福祉学部に歯科衛生士を養成する新しい学科(口腔保健学科)を開設します。
新設のきっかけになったのは、歯科医師会による「歯科衛生士が足りない」という訴えでした。加えて、歯科衛生士を養成する4年制大学が少ないという事情があります。
養成機関はほとんど専門学校か短大というのが現状で、本学は歯科衛生士の養成大学として国内では10番目になります。
歯科衛生士を養成する4年制大学は、その性格上ほとんどが歯学部を持つ大学の一つの学科として置かれていますが、本学は歯学部がありません。実習などでは徳島大学歯学部の支援を受ける予定です。
歯科衛生士は、かつては歯医者のお手伝い、下請けのような位置づけでした。現在は口腔保健という分野の役割が見直されており、本学としては健康寿命の延伸に貢献できる、専門性の高い歯科衛生士を養成したいと考えています。私立大学としては国内3番目になりますが、時代を先取りして養成に着手すべきと判断しました。
―少子化の影響で、定員割れする大学もあります。各大学が受験生に「選ばれる」ための改革を進めていますね。
最近の学生、さらに保護者の方が大学を選ぶときに重視しているものはやはり就職の実績です。幸い、本学の就職実績はかなり好調です。たとえば、一般には就職が困難とされている音楽学部や文学部の学生であっても、就職率はほぼ100%を維持しています。
就職やその先をみこして、国家資格を取得したいと考える学生も増えています。不安定な雇用状況を反映しているのか、国家資格があれば安心、と考えるのでしょうね。その結果、資格を取得できる学部・学科の人気が高まっています。とくに人気なのは看護や診療放射線、理学療法などです。
薬学部については、薬剤師国家試験が非常に難しいこともあって受験生が敬遠するようですね。薬剤師になろうと思っても、すべての方が合格できるという保証はありませんので、ある程度自信がある受験生でないと薬学部を志望できないのでしょう。さらに薬学部は2006年度から養成課程が6年間に延長されましたので、保護者の方には経済的負担も大きいですから。
国家資格取得を目指す学部については、合格率の高さをアピールするほかありません。
たとえば、本学薬学部に勤務していた方が別の大学の薬学部に移ると、教育内容を比較して文理大学の教育を非常に評価してくださるんです。さらに、薬学については薬学教育評価機構という評価機関があり、7年に1度、厳正な評価をしています。2014年に徳島キャンパスの薬学部が評価を受けましたが、まったく問題のない良い評価をいただき、改善を指摘されるようなこともありませんでした。
良い教育内容であることは間違いないのですが、残念ながら薬学部の学生すべてを薬剤師にすることにはまだ成功していません。全員合格を目指して、より研さんを重ねていかなければなりません。
―教育と並んで大学の重要な役割である研究活動について。
本学で研究活動が盛んなのは薬学部です。得意とする分野は天然物化学や衛生化学ですが、この分野については科学研究費補助金(科研費)の獲得件数が国公私立すべての大学のなかでベストテンに入っています。
科研費の獲得額では、本学全体で四国の私立大学のなかでは長年1位を維持しています。さらに私立大学では中四国で2番目、中四国九州で4番目の獲得額ですので、地方大学のなかでは研究にかなり力を入れている大学だと、ある程度認知されたのではないでしょうか。
―地方創生にも大学の果たす役割が期待されていますね。
大いに貢献したいと考えています。ただ、たとえば、「地元で就職を」といった勧めが学生の自由を縛るようなことがあってはなりません。徳島や香川に住んで、働いて、家族を作ってと決める前に、一度別の地域、たとえば東京などの都会を見てみるのはよいことと思います。
2017年度に予定しているのは、国内の都市部の大学と連携して国内留学のような形で都会の生活を経験してもらおうということです。
現在、中央大学(東京都)と交換留学協定を結ぼうとしています。夏休みの1週間程度を使って集中講義を行い、文理大学の学生は中央大学で、中央大学の学生は文理大学でそれぞれ学んでもらう予定です。こうすることでお互いに自分の大学の価値がわかりますし、文理大学の学生にとっては大都会の生活がどんなものかリアルに体験することもできる。
われわれとしては、「東京でいろいろ体験してみたが、やはり徳島・香川がいいな」となってくれること、また、東京の学生が卒業後四国で働きたいと思うようになってくれることが理想なんですが、そううまくいくかどうか。「やっぱり東京がいい」という人もある程度出るかもしれないですね。
―2005年には東京大学の副学長に就任されています。国際的に、日本の大学の評価が低いという状況をどう分析しますか。
じつは、個人的にはあまり大きな問題だととらえてはいません。たとえば、「The Times HigherEducation(THE)」などが毎年発表している大学ランキングは、純粋に大学の教育・研究レベルを評価したものではないからです。東大(最新のTHEで39位)がハーバード大(同6位)に比べて研究面で順位差ほど劣っているかというと、そんなことはありません。
つまり、国際化や女性教員の数などの多様性が指標の一つとして採用されているため、留学生や外国人教員の少ない日本の大学はどうしても不利になってしまうのです。これは東大の問題というよりは、日本社会全体の問題として考えるべきであり、日本社会がこれからどうあるべきかという問題提起になるでしょう。
もっとも、「国際化が必要だ」というメッセージが誤って受けとめられている懸念もあります。たとえば、小学校で英語を教えるという動きがありますが、個人的には賛成しかねます。国際化すなわち英語化ではないのだし、むしろ国語力の強化こそ必要ではないかと考えるからです。
15歳の生徒を対象にした、OECD(経済協力開発機構)の国際学習到達度調査(PISA2015)では、日本の中学生は数学、科学に比べて読解力が劣っているという結果が出ています。
小学生に英語を教えることよりもまずは自国の言葉をきちんと読む力をつけて、正確に理解する力をつける。そういったことは、ロボット(人工知能)にはない、人間の本当の能力を養うためには欠かせないことだと思います。
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