主体性を持った人材の育成を
◎理念・目的の重要性
1975(昭和50)年に岡山市街の中心地、天満屋百貨店のすぐそばに中島内科・神経科医院を開設しました。脳波を看板に開業しましたが、当初は患者数も伸び悩んでいました。
翌年、市内の総合病院の嘱託医として神経科を週1回担当するようになると患者数も増え、経営も軌道に乗り始めました。
1970年代後半は老人性精神障害が増加してきた時期です。しかし、残念ながら一般病院では老人せん妄などの精神障害に対して適切な処置がとられていないのが実情でした。
また診療所の外来で入院が必要な患者さんが来られても、どこの病院も引き受けてくれない時代だったのです。
そこで、この現状を何とかしたいとの思いで1980(同55)年、現在の場所に精神科89床、内科15床の計104床で山陽病院を開設しました。
山陽病院開業後、瞬く間にベッドは満床。1982(同57)年には医療法人社団良友会を設立。1986(同61)年に病棟を増築し、219床へと増床しましたが、それでも満床の状態は続きました。
1992(平成4)年に介護老人保健施設「藤崎苑」、2000(平成12)年にはケアハウス「ロータス桑野」を開設。こういう話をすると一見、順風満帆だったと思われるかもしれませんが、内実は違いました。
何よりも頭が痛かったのが、職員の定着率の低さです。職員は入っては辞めるの繰り返しだったのです。
ちょうど、その頃、全日本経営人間学協会、竹内日祥師の主催する経営人間学講座を受講する機会に恵まれました。その講座内で統合学、すなわち有機体システム思考を学んだことで病院の新しい理念、目的をつくることができました。
2003(平成15)年、有機体システム思考に基づく病院の理念・目的(別表)を発表しました。この理念・目的を毎日、朝礼時と終礼時に職員に唱和してもらっています。毎日唱和していると「読書百篇、意自ずから通ず」で少しずつ浸透してくるものです。
新しい理念では、この法人が生命をモデルとした有機体システムであるとし、「多様な構成要素が、それぞれの個性を保持しながら、同一の目的に向かって機能し、行動する組織体である」と定義しました。
目的に掲げているのが「顧客満足度に努める」「自己革新に努める」「人材育成に努める」ことの三つです。理念、目的を有機体システム思考に一新したことで、少しずつ組織風土が変わり、良い人材が入ってくるようになりました。
職員は困った時には目的を思い出してほしいのです。本当に顧客満足になっているのか、そして自己成長につながるか、それがまた後輩の育成になっているか、それらを振り返れば、どう思考し、行動するべきか、自ずと答えは見つかるのです。
顧客満足度には100点はないのです。当院では患者さんからのクレームは大歓迎です。それはクレームを受けた私が解決します。目の前の問題は自分の問題である。自分が解決しなければ誰も解決できないという当事者意識(主体性)を持ち、行動する人材を育てたいのです。
◎有機体システム思考
有機体システム思考(統合の思考)は、対立するものを統合します。二項対立に対して、二項共存の考え方です。例えば悪から善が生まれてくることもあれば、善から悪が生まれてくることもあるのです。だから善が善とは言い切れません。善の中に悪が含まれているという事実があるのです。また悪の中に善が含まれている。世の中はそのように成り立っているのです。従って善と悪は同じものの裏表であると考えることができます。
夫婦で言えば「夫がいるから妻となる」「妻がいるから夫」と言えるのであって、妻がいない夫はいないし、逆もしかりです。分かりやすく言えば夫と妻は切っても切り離せない存在だと定義しているわけです。
夫が起こした問題は夫の問題であると同時に妻の問題だと考える。これが有機体システム思考です。もちろん、この思考法は夫婦に限らず、会社、病院などの組織にも当てはめることができます。
◎病院の周囲に森をつくる
病院は木々に囲まれています。山陽病院では「命を守るいやしの森づくり1万本プロジェクト」と題し、創立30周年を迎えた2010年から2013年まで、植物生態学者の宮脇昭氏の指導で病院周辺に植樹をしました。
植樹するきっかけとなったのは、新聞で宮脇先生を紹介する記事を見たことです。先生の活動に感銘を受けた私は「山陽病院に来てもらえないか」と1通の手紙を書きました。
その時、宮脇先生はスマトラ島にいたのですが、わざわざ日本に戻ってきてくれて当院で植樹の指導をしてくれました。
現在48種類、1万2000本の木で病院が囲まれています。この木々が成長し、やがては「鎮守の森」となることでしょう。
木を植えることは「心に木を植える」ことであり、命を次世代に引き継ぐことです。この活動を通じ、心にしっかりとした根をおろした人材を育成するのが私の願いです。