二つの病院の統合・再編で新病院建設へ
神戸市東灘区の急性期病院として地域医療を支える六甲アイランド甲南病院。2019年にはグループ内の甲南病院と統合・再編され、回復期医療とリハビリテーションに特化した病院として新たなスタートを切る。同院の濵辺豊院長に思いを聞いた。
―病院の特徴を聞かせてください。
甲南会の始まりは、川崎造船所社長、文部大臣などを歴任した平生釟三郎が1934(昭和9)年に開設した甲南病院です。当初118床でスタートした病院は1987(昭和62)年に400床となりました。
その後、神戸市からの要請を受け、1992年、六甲アイランドで唯一の急性期病院として当院を開設しました。2000年には国立加古川病院の移譲を受けて甲南加古川病院を開院。翌2001年には当院内に甲南居宅介護支援事業所と訪問看護ステーションも開設しました。いずれの施設も「人類愛の精神に基づき、あらゆる点において病人を本位とした、悩める病人のための病院たらん」という創立者の思いを基本理念として、質の高い医療を提供できる病院、地域の方々に信頼される病院を目指しています。
六甲アイランドは総面積580ha、中心部が131haの人工島で人口は約1万8000人です。当院はこの地区の急性期医療を担う病院として、急性心筋梗塞、急性心不全、ショックなどの重症例に対しては24時間体制で受け入れています。
また、神戸という土地柄、外国人の居住者も多いため、英語だけでなく中国語、ポルトガル語などができるスタッフもおいて、安心して受診していただける環境を整えています。
―院長就任から3年になります。
赴任の話をいただいたときは「ようやく地元に戻って仕事ができる。医者冥利(みょうり)に尽きる」と思いました。患者さんの中には同級生やそのご両親もおられるため、違った緊張感もあります。院長の仕事は正直しんどいですが、毎日充実した仕事ができています。
当院の医師は67人と、そんなに大きな所帯ではありませんが、コミュニケーションの大切さを実感しています。「よりよい医療を目指す」というみんなの思いは同じです。一人ひとりの考えを聞きながら前進していくことが院長としての大きな役割だと思います。お互いに気持ちを通じ合わせて一緒に仕事をしていくため、努力していきたいですね。
また、病院の経営が安定していなければ、患者さんに質のいい医療を提供することができません。経営についても、患者数や売り上げなどの状況を見ながら、改善に向けた取り組みを行っています。
病院理念に基づいて、どんなささいなことでも困っている患者さんがいたら何でも診ようというスタンスで、患者さんの視点で考えた診療をしていきたいと考えています。
―昨年、産婦人科の診療を再開されました。
産婦人科医師不足などの事情から一時期は閉鎖していたのですが、2016年4月に神戸大学から産婦人科専門医4人が着任し、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣のう腫、子宮頸部(けいぶ)異形成、子宮脱などの婦人科手術を再開しました。
開腹手術だけでなく、腹腔鏡手術、腟式手術などの低侵襲手術、子宮や卵巣の温存手術など、患者さん一人ひとりの状況に合わせた手術をしています。助産師などのスタッフがそろった同8月からはお産の取り扱いを始めました。最初のベビーが誕生したのは8月25日です。
当院の産婦人科の強みは総合病院にあるということです。小児科は7人体制なので、新生児の急変にも迅速に対応できます。麻酔科医が常勤しているので緊急の帝王切開にも対応可能です。最近増えている高齢妊産婦や併存症のある妊婦さんは、他の診療科と併診察することができます。
産後のお母さんに対する心ばかりのサービスとして、分娩後3日目と4日目、2回の夕食に神戸ベイシェラトンホテル&タワーズの特製ディナーを用意しています。また、退院日には同ホテルの特製ランチをご夫婦で楽しんでいただけるようにしました。赤ちゃんはお預かりしますので、夫婦水入らずの時間を過ごすことができると好評のようです。
さらに、退院のお祝いとして、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」のモデルである女性が立ち上げた人気ブランド「ファミリア」のベビー用品をプレゼントしています。
昨今、分娩件数は減少傾向にありますが、一施設あたりの分娩数は増えています。これは経営が難しく産婦人科を閉鎖する病院や診療所が多いためです。これからも当院は神戸市東部エリアで、安心して分娩ができる総合病院としての役割を果たしていきたいと考えています。
―歯科・口腔外科にも特徴があるそうですね。
外来では智歯(親知らず)の抜歯や口腔の良性腫瘍の摘出、歯周病の外科治療、歯科インプラント治療、入院では顎(がく)変形症、顎骨骨折や口腔腫瘍の治療をしています。
特に顎変形症の手術に力を入れていて、常勤医4人体制です。すぐに命にかかわる病気ではありませんが、かみ合わせの問題は美容的側面だけでなく健康面にも大きくかかわりますので、早期に治療することが必要です。20代の患者さんを中心に年間130~140件の手術をしています。
―今年の抱負を聞かせてください。
当院から直線距離で5kmほどの位置にある甲南病院の本館は、築80年と老朽化していて耐震化も必要です。そこで、本館と南館を建て替えるとともに、他の建物も全面リニューアルしようという計画があります。
それに合わせて当院も改修し、新甲南病院を急性期医療に特化した病院に、当院は回復期医療とリハビリテーションの機能を拡充する予定です。
当院の病床数は307床、甲南病院は380床。距離の近さだけでなく多くの医療内容が重複していますので、人員や設備(医療機器)に二重にかかっていたコストの無駄を省き、診療の効率化を図る目的です。
新甲南病院の着工は本年3月。2019年に建物の一部をオープンします。両院の改修工事などを済ませてグランドオープンするのは2022年の予定です。
新甲南病院は、500床の総合病院として生まれ変わります。救急の初療室は4室設け、心筋梗塞・脳卒中を含めた救急医療に24時間365日対応。小児科は週に1回以上は二次救急輪番に参加します。
一方当院は、救急告示を継続。内科の病院群輪番制への参加は継続しますが、外科・循環器内科・整形外科・小児科の輪番機能は新甲南病院へ引き継ぐことになります。
これまでの6床室から4床室に改修することで病床数は307床から181床に縮小。アメニティーを充実させるほか、外来、リハビリテーションセンター、健診センター、透析機能を拡張します。
休日や時間外診療については医師2人の当直体制で、新甲南病院と専用電話回線をつなぎ、相互閲覧可能な電子カルテを使って診療していきます。緊急手術など専門的な医療が必要な場合には、当院の救急搬送車で新甲南病院へ転送する体制も整える予定です。
二つの病院を統合・再編することによって、東灘区の地域医療の質をさらに向上させるとともに、若手医師にも選ばれる魅力ある病院にしていきたいと考えています。