地域に根差した病院に
1955(昭和30)年に鹿児島県内で誕生した内科医院を前身とし、現在、鹿児島市で中央病院をはじめクリニックや特養、老健なども展開する社会医療法人天陽会。今年9月に就任した厚地伸彦中央病院院長に新院長としての思いを聞いた。
―天陽会発足から61年になるそうですね。
祖父の今村健一が内科医院を開業したのが始まりです。この中央病院は現在219床。鹿児島市の中心部に位置し、交通至便な病院として、開院から現在に至るまで、鹿児島市内で救急を柱に断らない病院、地域に根差した病院という理念で運営しています。
鹿児島大学病院、鹿児島市立病院などと綿密に連携し、顔の見える関係を作りながら鹿児島のみなさんが安心して暮らせるような医療を提供したいと考えています。
隣接する中央クリニックは、中央病院の外来を担っています。また、健診も非常に頑張っており、病気になる前の「未病」の段階から患者さんに関わっていきたいと考えています。
当法人には急性期のみならず、その後の受け入れ先として、介護老人保健施設などもあります。医療を通じて地域に貢献することが、われわれがこの地に存在する意義です。
院長になって特に気を付けているのは、患者さんにとっても、職員にとっても話しかけやすい雰囲気をつくることです。そこからコミュニケーションが始まります。
―急性期の病院として医師、看護師の確保は。
医師、看護師の確保は非常に大変です。心臓血管外科の医師については、昨年、久留米大学からの派遣がスタート。そのほかの科の医師については、鹿児島大学をはじめ、私が九州大学卒業ということで 、そちらからも協力をいただいています。
看護師の確保については、当グループ独自の奨学金制度などの取り組みを始めています。
また、看護師の場合、離職することなく、長く働き続けられる体制を整備することも大事ですので、子育て支援には力を入れています。24時間保育の保育施設を早くから完備しているのも特徴です。
保育園が手狭になったこともあり、病院の目の前に、新たに保育所と看護師の寮を備えた施設を建設中です。再来年、2018年3月の完成を目指しています。
この保育所で育った子どもたちが、いずれは鹿児島の医療を支えていく人材になっていくことを期待しています。
―研究活動や情報発信に力を入れています。
医療職には、年2回院内研究会への参加と研究内容の発表を課しています。医療は日進月歩。新しい情報に常に敏感であるためにも、医師だけでなく看護師、メディカルスタッフも、日頃から研究を行う意識が大事です。また、ここでの発表などを書面にまとめて発刊する「ジャーナル」も創刊から60号を越えました。
地域への情報発信のために、市民公開講座も年2回開催しています。
医療情報だけでは、なかなか人も集まりませんし、職員も興味ある講師の話を聞きたいということから、著名人をお迎えして講演会も行います。今年9月には、ジャーナリストの金美齢氏を迎えたところ800人もの人が集まり、大変盛況でした。
また、年1回なのですが、無料健診も実施しています。採血、血圧測定、コレステロール値測定などの項目がありますが、これも例年600人程度がお越しになります。
検査結果に問題がある場合は、再受診していただき精密検査を受けるようアドバイスをしています。自分の生活を見直していただくきっかけになればと思います。
―AEDの講習会に力を入れているそうですね。
私自身が循環器の医師ということもあり、院内や院外でのAED(自動体外式除細動器)講習会に力を入れています。
循環器の疾患の場合、あっという間に急変することが多々あります。今年、鹿児島市での市民マラソンのゴール直後に、一人のランナーが心肺停止となったのですが、ゴールに当院スタッフも配置させていただいており、AEDを使用し事なきを得たこともあるんですよ。ですから、地域住民全体で、心臓マッサージについて基本的な情報を知っておいてほしいのです。AEDの使用によって 、院外心停止からの社会復帰率が2倍になるというデータが発表されたこともあります。
講習会では、当院から医師や、看護師の有資格者が、中学校、高校を訪問。生徒が2人から4人のグループに分かれて、人型模型20体から25体を使って実際にAEDを体験します。
今年開催された日本救急医学会学会では、小学校5、6年生からでもAEDについては、十分学ぶ力があるという報告もありましたので、今後は、枠を広げて、ぜひ、小学生にも体験してもらえればと思っています。
―循環器の医師のやりがいは。
循環器を選んだのは、学生時代から、救急医療に取り組みたいという思いが強くあったからです。
初期研修先に選んだのは、救急車の搬送件数が多いということで知られていた麻生飯塚病院(福岡県飯塚市)。苦しんで搬送されてきた患者さんが、循環器の医師の素早い治療で、すぐさま元気になる様子に感激しました。
実際、自分のしたことが、患者さんのためになっているという実感があります。その分、緊張もありますが、やりがいも大きいものです。