大分大学医学部内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座 柴田 洋孝 教授

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血糖、ヘモグロビンA1Cに加え体重と低血糖にも注意して治療

【しばた・ひろたか】 慶應義塾高校卒業 1988 慶應義塾大学医学部卒業 1993 慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了 1994 Baylor College of Medicine, Postdoctoral Research Fellow (Bert W.O' Malley 教授) 2007 慶應義塾大学専任講師(医学部内科学) 2013 大分大学医学部内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座教授、大分大学医学部学部長補佐(東九州メディカルバレー構想担当) 2014 大分大学医学部附属病院血液浄化センター副センター長

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◎車社会で運動量不足

 糖尿病患者は全国的に増え、大分県も例外ではありません。中でも肥満による糖尿病、高齢者の糖尿病が増えています。県内の糖尿病患者数(10万人当たり)は全国でも多いほうですし、糖尿病腎症による新規透析導入患者数(同)も、私が就任したばかりの2013年ごろには、ワーストだった瞬間もあるほどです。

 理由はいくつか考えられますが、一つは大分県が車社会で運動量が少ないということがあるかもしれません。糖尿病に関わる生活習慣として「食事」と「運動」がありますが、県内は運動量が不十分な人が多いのではないかと思います。

 糖尿病は空腹時血糖値とヘモグロビンA1Cを目安としますが、法律で定める特定健康診査では、これらのどちらか一方のみを検査するため、血糖値だけでは異常が見つからなくても、糖尿病直前という人も、少なくないようです。

◎専門家による食事指導

 糖尿病やその前段階では食事療法が基本となります。運動は心臓の状態など人によって向き不向きがありますが、一日三度の食事を改善することは、大前提として重要です。食事療法なしには、どんな薬を投与しても糖尿病の治療はうまくいきません。

 難しいのは、極端に食事すべてを制限すればいいということではないという点です。脂肪は減らしてもいいのですが、タンパク質は、ある程度摂取しないと骨折しやすくなり、高齢の方は筋肉量が落ちる「サルコペニア」にもなり、転倒や寝たきりの原因になります。

 筋力を保てないと、転倒、骨折、さらに寝たきりへとつながり、生活の質はどんどん落ちてしまうため、取ってほしい栄養素です。ところが、糖尿病によって腎臓が悪くなってきた患者さんの場合は、タンパク質を控える必要があります。自己判断でちょうどいい量を判断するのは困難です。

 私たちは、患者さんに普段食べている食事を、3食3日分ぐらい写真に撮ってきてもらい、管理栄養士がアドバイスをしています。糖尿病は治りません。そう言うと、悲観的にも聞こえますが、適切な食事や規則正しい生活、治療で手元に押さえ込んでおける病気でもあります。

 患者さんが、生きがいを持って元気に生活できるように治療していくのだということを、患者さんに理解してもらうことに時間を割いています。

 糖尿病予防や治療には、体重コントロールも大事になりますが、炭水化物制限ダイエットには、注意が必要です。これは炭水化物さえ抑えれば何でも食べられ、短期間で効果が出るのが、流行する理由だと思います。

 ただ、炭水化物を制限すると、その分、ほかのものを食べる量が多くなります。特に、脂質とタンパク質が多くなる傾向があるようです。すると、コレステロール値が高くなり動脈硬化が進んでしまったり、すぐには影響がなくても将来、40代、50代になって脳梗塞を起こしてしまったりして、後悔することになるかもしれません。

 さらに糖尿病の人で腎臓が悪くなりつつある人の場合は、タンパク質の摂取割合が高まることで透析に近づいてしまう場合もあります。糖尿病は早期発見が難しい病気ですから、危険はなおさらです。

 少し太めで若い人が、健康チェックをした上で、ごく短期間実施するのは間違いでもないのですが、糖尿病の人が飛びつくのは、危険だと思っています。

◎新薬続々さらに増加の見通し

 かつては、「糖尿病治療は血糖値を下げればいい」という時代もありました。インスリンという血糖値を下げるホルモンには、タンパク質や脂肪を増やす働きがあり、血糖値が下がると食欲が出てきます。そのため、糖尿病治療では、血糖の値はコントロールできても体重が増えていくことが多くありました。低血糖についても、現在ほど認識されていませんでした。

 今、糖尿病の治療薬は、内科の薬の中で群を抜いて増え、しかもいろいろなタイプの薬が出ています。インスリン注射や、インスリンの効きを良くする薬、インスリンが膵臓から出やすくする薬など、いろいろなタイプがあり、今後もさらに増加しそうです。

 最近登場した新しい薬の「SGLT2阻害薬」は、これまでの糖尿病治療の概念からすると、まったく違うタイプの薬です。尿に糖分を捨てて血糖値を下げる。極端な言い方をすると、「300キロカロリー分ぐらいは、食べなかったことにできる」という効果があり、体重は増加よりも減少する傾向があります。

 本来の使い方とは少し違いますが、特別な日に、食事制限を緩めるためにも使うことができます。毎日毎日、食事療法をするのは、大変なことです。普段はしっかりと食事療法をして、宴会やパーティーなどの時には、自分へのご褒美として少し多めに食べてもいい。そんなメリハリがあれば、頑張れるという患者さんもいると思います。

 この薬が今までと一番大きく違う点は、この薬を使ったことで糖尿病の患者さんの「死亡率が減った」という論文が出ていることでしょう。糖尿病の薬は数々ありますが、死亡率を有意に改善させたものはありませんでした。

 糖尿病患者の死因は多い順に悪性腫瘍、肺炎、心血管疾患です。従来の薬に比べて、血糖値にそれほどの差がないことから、血圧低下作用や利尿作用などにより、心血管疾患が減ったからだという解釈もありますが、本当の理由はまだ不明です。今後、さらに研究が進んでいくでしょう。ただ、一つ言えることは、単に血糖値を下げるだけでなく、その下げ方が重要になっているということです。

 「DPP4阻害薬」は、新薬ながら、おそらく世界で最も多く使われている薬だと思います。1日の中で食事の度に常に変動する「山あり谷あり」の血糖値の「山」の部分だけを下げる、低血糖が起こりにくい薬です。

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 低血糖が頻繁に起きている患者さんは、空腹時血糖値やヘモグロビンA1Cのコントロールがうまくいっていても、低血糖が起きていない患者さんに比べて心筋梗塞などのリスクが高くなります。自分ではわからない「無自覚性低血糖」では、急に昏睡状態に陥る場合もあり、大きな問題です。

 低血糖の状態で車の運転をすると、意識を失って大きな事故につながることがあり、私たちの見極めも重要になっています。高齢者の場合は特に低血糖による異常な行動が、認知症と間違われ、見過ごされているケースもあります。

 問診の際には、患者さんの受け答えに違和感がないか、残薬の量は適正か、家族が気づいている異変はないかなど、あらゆる方法で低血糖が起きていないかを確認しています。

 大分県は車社会です。80歳を超えても、車を運転しないと生活ができないという人もいます。患者さん自身だけでなく、他の人の命にもかかわってきてしまう低血糖を起こさない治療というのが、なおのこと大事になっていると思っています。

大分大学医学部内分泌代謝・膠原病・腎臓内科学講座
大分県由布市挾間町医大ケ丘1-1
TEL.097-586-5793
https://www.med.oita-u.ac.jp/naika1

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