「お互いさま」の精神
トップ主導で育まれるワークライフバランス実現の風土
女性医師が働きやすい体制が整い、第二子、第三子を出産するケースも多数あるという長崎大学眼科学教室。女性医師の離職や復職困難が言われる今、なぜそのようなことが可能なのか。眼科病棟医長である築城英子講師に話を聞いた。
―多くの女性医師が活躍されていると聞いています。
私が入局したのは1999年。当時のこの医局は男性のほうが多く、私の同期も男性が3人、女性は私を含めて2人。その後、女性の入局者の割合が高まり、男女比は逆転しました。
大学病院内勤務の眼科医師は現在26人。うち16人が女性です。16人中5人は、外来のみ、週16時間以内のパート勤務。残り11人はフルタイム勤務です。フルタイムの女性医師の中で子育て中の人は7人。彼女たちは基本的に当直免除でよしとしていますが、男性と同じように当直しているママさん医師もいます。
パート勤務の導入は3年ほど前。常勤や当直勤務への復帰の時期に規定はありません。それぞれ事情が違いますので、本人の希望に合わせるようにしています。
大学の外を見てみても、長崎大学眼科の主な関連病院の部長は、ほぼ女性となっています。
―女性が増えている理由をどのように考えますか。
もしかしたら、「眼科は楽」というイメージがあるのかもしれませんね。緊急の手術もありますし、けっして楽だとは思いませんが、手術しない選択肢もあること、命に直結しないということなどの理由で、眼科を選択する女性が多い可能性はあると思います。
医局の雰囲気の良さもあるのかもしれません。当教室の北岡隆教授は、「家庭も大切にしよう」といつも言っていますし、教授自身、可能な時には家族の行事のために休みを取ることもあります。
ワークライフバランスを実現すべきなのは、女性だけではありません。男性も、子どもの参観日などの予定があるときには年休を取得できるようにしています。そういう時には、パート勤務の人が代わりに外来をするなど助け合っています。「お互いさま」という気持ちが、医局のみんなにあると感じます。
不平不満は、もしかしたらあるのかもしれませんが、耳にすることはないですね。男性スタッフが優しく、「お母さんは大変」ということをよく理解しています。時間外勤務を免除している子育て中の医局員の仕事が長引き、「子どもをお迎えに行ってくれない?」などと家族に電話をかけているのを見ると、「代わるから、もう帰っていいよ」と声をかける。そんな姿をよく見かけます。それが当然、という雰囲気が医局全体にあり、それも働きやすさにつながっていると思います。
―ご自身は、女性を理由に苦労したことなどはありますか。
まったくないんです(笑)。体力にも自信がありますし、逆に性別が女性だからいたわってもらうなど、「得することはあっても、損したことはない」といつも思っています。
一度だけ、「女性の医師には診られたくない」という男性の患者さんがいらっしゃって、「今日は女性医師しかいません!」と言って診療したことがありますが、そのぐらいです。
私は結婚も出産もしていませんが、私が入局したころは、結婚したら医局を辞めるものだ、というような雰囲気でした。今は、産休・育休を取得後、戻ってきやすくなっていると思います。結婚に伴う遠方への転居などを別にすると、結婚や出産が理由で辞めた後輩は、いないかもしれませんね。
個人的には、女性医師が結婚や出産で仕事を辞めてしまうのは、もったいないな、と思います。
―医局員を指導する立場として、男性、女性、それぞれにどんな配慮をされていますか。
指導する上では、男性だから、女性だから、ということはあまり気にしていません。
手術の手技もしっかりと身に付けてもらう必要がありますし、臨床研究や論文執筆も同じようにしてもらいます。子育て中は大学院進学が少し難しいということを配慮するぐらいでしょうが、それも各人の判断に任せていますので、子育て中の大学院生もいます。
強いて言えば、手術などの指導をしていると、女性のほうが、思い切りがいいような気がします。男性のほうが慎重!?そんな傾向があるように感じます。
ただ当然、個人差がありますので、それぞれのタイプや将来の展望、希望や優先順位に合わせた指導を心掛けています。
―子育て中の女性医師に言いたいことは。
無理はしないこと。申し訳ないと思わないこと。悩みも仕事も一人で抱え込まないこと。
遠慮して抱え込む人もいれば、仕事を独り占めしたくなってしまう人もいると思いますが、助けてもらえるところは助けてもらえばいいと思いますし、逆に、自分が助けることができる場合には、周囲を助けるということが重要です。
仕事を続けるには、良いサイクルに入ることが大事だと思います。例えば、学会の準備は大変ですが、頑張って演題を出して学会に参加すれば、次の研究のヒントが見つかったり、人との交流があったり、遠方でリフレッシュできたりします。
心の余裕と楽しみな時間を持てれば、大変なときも乗り越えていける。もし負のサイクルに入ってしまった人がいたら、ひっぱりあげられるよう、周囲が心配りをしていく必要があると思っています。