社会医療法人杏嶺会 一宮西病院 上林 弘和 院長/神経内科 山口 啓二 部長

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東海地区初のHAL導入
新たな医療技術で、幸せな高齢社会を見いだす

【かみばやし・ひろかず】 1981 愛知医科大学卒業 【主な資格】精神保健指定医 日本精神神経学会専門医・指導医  日本精神科病院協会認定指導医【やまぐち・けいじ】 1992 慶応義塾大学医学部卒業 同内科研修医 1996 同神経内科 2000 同救急部 2002 米国・インディアナ大学 神経病理学教室 2005 慶應義塾大学医学部 非常勤講師 2006 水戸赤十字病院 神経内科部長 2012 一宮西病院神経内科部長

 愛知県一宮市や尾張西部地区の救急医療や急性期医療を担う一宮西病院。10月に医療用の装着型ロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)を東海地区で初めて導入し、注目を集めている。導入から1カ月半、その狙いなどについて上林弘和院長と同院神経内科の山口啓二部長に聞いた。

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―今年10月から東海地区では初めて、HAL(下肢タイプ)を導入されました。そのメカニズムについて教えてください。

山口啓二部長=以下山口部長
人間が体を動かす際には、脳から筋肉に、神経を通して、さまざまな信号が送られていますが、それらの信号は"生体電位信号"として、皮膚の表面に出ています。HALは、装着している患者さんのこの"生体電位信号"をセンサーで感知して、立ったり、歩いたりといった動作をサポートしてくれます。また、操縦するのではなく、患者さん本人が一体となって動かします。

 運動機能を回復するには、患者さん自らの「動かそう」という意思に基づいた動作を、何度も反復する必要があるといわれています。

 HALは患者さんの意思に基づいた「立つ」「歩く」といった動作を、正しくアシストすることが特長です。このため、HALを装着して訓練をすると、訓練によって得られた体の感覚が、患者さんの脳に、繰り返しフィードバックされます。このため従来の治療にはなかった大きな効果が期待されています。神経難病の患者さんにとって、希望の光になる可能性を持っています。

 この医療用のHALは、全国9カ所の病院で行われた治験で、これまでは、治療が難しいとされた難病の患者さんの歩行障害を改善する効果が見られ、かつ、それが科学的に証明されました。この結果、全く新しい医療技術として、厚生労働省が医療機器として承認。今年の4月からは、筋ジストロフィー、ALS(筋委縮性側策硬化症)など、八つの神経難病に限って、保険適用が認められました。

 これにともない、当院では10月に下肢タイプの医療用HALを導入。保険の適用がある、神経難病の患者さん数人に入院していただき、2週間にわたって、HAL治療をしました。

―導入のきっかけは。

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上林 弘和院長

山口部長=
私は、神経内科医です。筋ジストロフィー、ALS(筋萎縮性側策硬化症)などといった神経難病は、診断そのものも大変難しいのですが、たとえ診断ができても、患者さんの期待に応えられるような治療法がないというのが実状なのです。無念な思いさえ感じていました。

 そのようななか、以前から注目していたHALが、2016年4月から保険適用になると知り、5月に行われた日本神経学会学術集会に出向くなどして、それが有効性のある治療かどうかの情報収集にあたりました。

 最終的に神経内科医で、HAL研究の第一人者で国立病院機構新潟病院(新潟市)の副院長でもある中島孝先生に直接お会いして話をうかがうことができたのです。

 新潟病院では、神経難病の患者さんが実際にHALを使って治療している様子を見学しました。これまで車いすを使い、長期間歩けなかった患者さんが歩けるようになったという事例などを実際に目の当たりにし、当院でもぜひ取り組みたいと思いました。

―導入にともなう条件などは。

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HALによる訓練

山口部長=
HALは、機材を購入するのではなくレンタルとなります。S・M・Lの3サイズありますが、これらをすべてそろえるのが理想です。これに加えて、リハビリの機器も必要です。

 また、人材が重要です。一定の研修を受講し、試験をクリアした医師がいなければHALでの治療は実施できません。当院では私がその立場となりました。

 さらに、HAL治療の現場では、理学療法士(PT)と、補助1人の2人が患者さんの横に付く必要があります。担当するPTも、やはり一週間程度の研修を受けなければなりません。

 つまり、機械のレンタルだけでなく、訓練したPTが豊富にいないとHALの治療をうまく進めていくことができないのです。

上林弘和院長=以下上林院長
その点では、当院の場合、グループ全体でセラピストが約300人、PTだけでも約180人いますので問題はないと考えています。

 また、東海地区では当時は、他の病院で導入するという動きもなかったため、地域全体で考えた場合、うちの患者さんだけでなく、地域にHALが必要ではないかと考えました。

山口部長=
また、HALは、神経難病だけでなく、脳卒中などの患者さんの治療に有効だというデータも出始めていますし、実際にその臨床試験も国内で始まっています。

 ですから、次のステップとして、脳卒中の治療を見据えて、HALの治療に取り組みたいと考え、それを上林院長に伝えたところ、すぐに導入を認めていただくことができました。

 当院の場合、神経難病の患者さんも診ていますし、急性期の病院として、脳卒中の患者さんの治療もしている。その条件がある病院自体もこの地域では少ないです。

 HALを導入している病院自体が広がらないなか、現時点では保険適用がないこともあり、脳卒中にHAL治療を行える病院はほとんどありません。それだけに 、当院で導入できたことは大変ありがたいですし、同時に、責任も感じています。

―脳卒中へのリハビリにHALを導入する意義は。

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山口部長=
脳卒中は、要介護になる原因の第1位となっている疾患です。

 もちろん、現在も脳卒中へのリハビリはしています。しかし、現在のリハビリでは下肢の場合、杖を使いながら、残った力を生かす方法が主です。それまでのような通常の歩き方とは違う動作を獲得していかなければなりません。

 一方、HALの治療は、本人の意思で体を動かして回路ができ、しかも正しい歩き方を短期間で習得するものです。HAL治療は、今までにない治療だと考えています。

 脳卒中によって、障害を持つことになった患者さんには、厳しい現実があります。本人は障害を受け入れ、家族もまた障害がある家族を受け入れ、新しい生活を構築しなければなりません。

 老老介護、独居など課題もあり、不幸にして、家庭崩壊に至ってしまうという現実を目の当たりにしたこともあります。それらの問題を、HALの治療が少しでも軽減することができれば、人々の幸せにつながることはもちろん、日本全体を見ても、介護の負担が減りますので、大変意味のあることだと思います。

―10月に使い始めて効果はいかがですか。

山口部長=
まず、神経難病の患者さん2人は、2週間程度実際に試したところ、歩行の速度が3割から5割早くなりました。装着して、1、2日はぎごちなかったのですが、フィットして機械に慣れると効果が目に見えて表れてきました。これまで、2人とも治療方法がなかったので、初めて希望が生まれたのです。周囲が「良くなったね」と言ってくれることも本人のモチベーションになっています。2回目のリハビリもしたいという要望も出ています。

 11月からは、脳卒中で臨床試験を始めました。やってみると期待以上に効果が出ていると思います。

上林院長=
脳卒中の患者さんにとって、新しい治療があるということは希望です。日常生活動作(ADL)がよりスムーズになれば、在宅復帰も増えるでしょう。地域の多くの患者さんが利用して治ってくれることが私の望みですね。

 ですから、早く、臨床研究で良いデータが得られることを期待しています。そして、HALの治療を当グループ全体で診ている脳卒中の患者さんが受けられるような体制にしたいという希望を持っています。

―今後の課題は。

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山口部長=
やはりリハビリを担当する人材を増やしていかなければなりません。当院は今後は東海地区のHALの中核施設となります。

 つまり、研修を実施し、スペシャリストを養成する訓練ができる体制が求められます。これまでは、研修のために新潟病院まで行かなければなりませんでした。養成できる指導者が育てば、わざわざ新潟に行かなくとも院内で、指導者を育てることができます。しかし、通常の診察やリハビリをしながらの体制なので課題も多くあります。

 脳卒中のHAL治療の臨床試験においては、スピード感を持って取り組み、早くデータを出したいと考えています。2025年を迎える前に、少しでも介護の問題を緩和することで地域に貢献したいのです。

 ただ、まだ安全性の検証の段階なので少し時間はかかると思います。急性期に有効なデータを示せれば、多施設共同研究を実施して本当に有効なのかを検証する必要があります。またHAL治療を実施するにしても、発症してどのタイミングで始め、またどういう頻度で、どのようにやればよいのか、客観的、科学的に検証していきたいと思います。

―夢は。

山口部長=将来的には当院にHALセンターのようなものをつくりたいですね。HALの治療の研修を受けたPTによる安定した供給体制や施術体制を確立し、HAL治療待ちというようなことにならないようにしたいと思います。国内で脳卒中に対するHAL治療のノウハウが確立すれば、日本発の技術として、世界に輸出できるのではないでしょうか。

上林院長=
アメリカにも高齢者は多いですし、中国は日本とは比較にならないほど多数の高齢者がいます。世界的な問題の解決につながる可能性もありそうです。

HALでの治療を体験した患者(80代)の声

1カ月前に脳卒中になりました。当初は立つこともできず、もう何もできないと落ち込みました。ロボットのリハビリを知り、最初は、着けるのも慣れませんでしたが、3回目から、だんだんコツをつかむことができました。今は歩くこともできますし、そのスピードも速くなりました。不安だった気持ちがずいぶん軽くなりました。

社会医療法人杏嶺会 一宮西病院
愛知県一宮市開明平(ひら)1
TEL:0586-48-0077(代表)
http://www.anzu.or.jp/ichinomiyanishi


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