心ふれあう温かい医療を目指して
過渡期の高齢者医療に向き合う
愛と信頼で築く医療。医療法人協和会協立温泉病院が掲げる理念は、患者本人が自覚的に生きることを応援し、全力で支えるという決意のあらわれだという。
理念の根底には、「人とはなにか、人間らしく生きるとはなにか」という根源的な問いかけがある。藤岡秀樹院長と、池田輝美看護部長、小田政司事務長に、理念にこめた思いを聞いた。
ー医療法人協和会は、兵庫県南東部と大阪北摂地域を中心に、7病院、5介護老人保健施設などを運営されています。
藤岡秀樹・院長(以下、藤岡)
当院は法人の2番目の病院として1983(昭和58)年に開設され、2013年に30周年を迎えました。
このあたりは、平安時代からの逸話が残る炭酸冷泉が湧出しており、現在はアサヒ飲料が発売している「三ツ矢サイダー」発祥の地としても知られます。病院設立当初は、この炭酸泉を温めてリハビリに利用していた時期もあり、当院の名称の由来ともなりました。
現在、川西市を中心とする医療圏内の高齢化が急速に進んでいます。なかでも隣接する大阪府豊能郡には病院がありませんので、当院は地域住民の方から、とくに高齢者の慢性期医療を担う病院として期待も大きく、責任を感じています。
ー基本方針の一つに掲げられている「希望に沿い、満足と納得の医療」。多様な解釈が可能です。尊厳死まで視野に入れていますか。
藤岡
急性期、慢性期に限らず、多くの医療者が、人生の最終段階における医療にどうかかわるか、いわゆる終末期医療について悩んでいます。
私は、医師のキャリアのほとんどで急性期医療に携わってきましたので、基本的には、たとえ高齢の患者さんであろうと手術の適用があればチャレンジしようじゃないか、という考え方でした。
しかし、2013年に当院に赴任して慢性期医療の現実に触れるにつれ、さまざまなことを考えるようになりました。
はたしてこれまでのような考え方でいいのか、本当に患者さんご自身やご家族の意向を反映しているのか。
たとえば人生の最終段階で、自分自身の場合は、「自分で食べられなくなったら、延命治療は必要ありません」と答える方が圧倒的に多い。それが自分の親や家族となると同様の選択ができるのか。
外国ではリビングウイル(死に関する意思表示)を書く習慣がある地域も多く、欧米では重度のアルツハイマー病で食べられなくなれば積極的治療はしないことが社会通念になっています。こういった考え方は日本ではまだ受け入れられていません。日本は高齢者医療の過渡期にあるといってもいいでしょう。
池田輝美・看護部長
高齢の方の医療に従事するということは、必然的に人生の最終期に向き合うことになります。
現在、当院で取り組んでいるユマニチュード(※)という方法論以外にも、看護部では、以前からグリーフケア(悲嘆、悲しみに対するケア)に取り組んでおり、個人的にはがんに限定しない緩和ケアについても学んでいます。
私の理解する緩和ケアの精神は、「苦痛を和らげ、生きている時間を有意義に過ごすための支援」です。これはまさにご高齢の方への対応であり、全ての看護や介護の基本だと思います。
ケアの方法について、患者さんが自分で選択するケースもありますが、ご家族にゆだねられるケースが多いのが現状です。その経過でご家族は「自分の選択は間違っていなかったか」と後悔することがあります。でも「皆さん迷います」「方針はいつでも変更できます」とお話します。そして、看取りにおいては「あなたが選んだ選択肢は絶対に正しい」と必ず伝えるようにしています。そのことで、少しでもご家族の心の負担が軽減されることを願っています。
ー厚労省は、療養病床の再編(廃止含む)を企図しています。
藤岡
国内の人口減少は始まっていますが、高齢者人口については、2050年頃まで増加すると推計されています。高齢者を対象とする当院のニーズはさらに高まるでしょう。
一方、今回の診療報酬改定(医療療養病棟2における医療区分の要件)を見てもわかるように、主に社会保障費削減のために療養病床を"減らさざるをえない"というのが厚労省の方針です。
2018年には療養病床約27万床のうち、およそ14万床を継続か廃止、あるいは別施設に転換するという計画が実施されます。しかし、この地域は高齢者人口が多く病床の需要はこれまで以上に高まることが予想されます。
今から地域をあげて、その対策を考えなければいけません。
最大の問題は医療必要度の低い方たちの行き場所がなくなることです。病院にいられない高齢者で、さまざまな事情で在宅復帰できない方をどうするのか。
大きな社会問題になると思いますが、こういった細かなニーズを踏まえたうえで地域の医療機関で連携し、対応する必要があると考えています。とくに在宅医療を担う開業医の先生方をどのようにサポートするかは大きな課題です。
小田政司・事務長
終(つい)の棲家(すみか)ではなく、あくまでも病院としての役割を果たすために、在宅復帰支援の機能を高める必要があります。いまはそのシフトチェンジの時期だと思います。
今年4月の診療報酬改定では退院支援加算1の施設基準を取得しています。また、近隣の在宅医と連携して、在宅療養後方支援病院の施設基準取得の準備を進めています。現在、二つの在宅医と提携を結ぶ段階で、在宅医療を受けていて、入院が必要になった患者さんを当院で受け入れる体制を整えているところです。
藤岡
2012年に日本老年医学会が「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン―人工的水分・栄養補給の導入を中心として」を出しましたが、今後の「人生の最終段階における医療」を考える上で非常に示唆に富んでおり、場合によってはご家族も含めてぜひ読んでいただきたいですね。
※ユマニチュード
Humanitude=フランス語で「人間らしさ」。フランスのイブ・ジネストとロゼット・マレスコッティにより創始された、とくに高齢者と認知症患者に対して有効とされるケアメソッド。
高齢者、認知症患者などとコミュニケーションするための技術論。協立温泉病院では、2年前から導入し、医療者全員が身に着けることを目指している。「誰かと話すためには、その人の情報を知っておく必要があります。その人の物語をベースにおいてどのように向き合うか、物語に基づいた医学(Narrative based medicine)、の裏付けが大切と考えています」(藤岡院長)
医療法人協和会 協立温泉病院
兵庫県川西市平野1丁目39番1号
TEL:072-792-1301(代表)
http://www.kyowakai.com/os/os.htm