九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二
11月2日、医療安全調査機構は、「医療事故調査制度開始一年の動向」を発表しました。
1年間の報告件数は、結局、388件でした。前回も述べたとおり、制度発足前の予測からすると、4分の1程度の件数です。この点について、機構側は、「想定した数字が大き過ぎたり、医療事故の定義が異なったりしており、もう少し様子を見る必要がある」とコメントしているようです。
医療事故の定義が異なっているというのは、この予測の根拠となった医療事故情報等収集等事業と、この医療事故調査制度との間には、その報告範囲の定め方が違うという意味だろうと思われます。
医療事故情報等収集等事業においては、報告範囲は基本的には以下の二つです。
「誤った医療又は管理を行ったことが明らかであり、その行った医療又は管理に起因して、患者が死亡し、若しくは患者に心身の障害が残った事例又は予期しなかった、若しくは予期していたものを上回る処置その他の治療を要した事例」
「誤った医療又は管理を行ったことは明らかでないが、行った医療又は管理に起因して、患者が死亡し、若しくは患者に心身の障害が残った事例又は予期しなかった、若しくは予期していたものを上回る処置その他の治療を要した事例(行った医療又は管理に起因すると疑われるものを含み、当該事例の発生を予期しなかったものに限る)」
これに対して、医療事故調査制度での医療事故の定義は、医療法で「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの」と定められており、この定義に該当しないものは報告範囲から外れます。
このように、報告範囲の定め方は確かに異なります。しかし、「医療に起因した予期しない死亡」という根幹部分は共通しているわけですから、4分の1に減ってしまうほどの違いとは思えません。
今回発表された数字で、もうひとつ注目されるのは、患者死亡から医療事故報告までの期間が平均31・9日と、かなり長いことです。つまり、結果的に報告されたケースでも、報告すべきか否か、つまりこの制度でいうところの「医療事故」に該当するか否かについて、医療施設の管理者に迷いがあったことが窺(うかが)われます。
定型的な項目のみを報告すれば足りる医療事故情報等収集等事業と比較すると、自ら事故調査委員会を構成して原因分析を行い、遺族にその結果を説明するという今回の調査制度は、医療施設には負担感が大きいと思われます。そのため、報告範囲に含まれる医療事故と判断することについて、慎重に、端的にいえば、消極的になっているというのが実情なのではないでしょうか。
しかし、医療事故と判断した場合の手間暇の問題で、その判断が左右されるとすれば、本末転倒というほかありません。医療事故再発防止の原点は、事故を事故として正しく認識し、その情報を広く共有することです。
次回以降、わたしが弁護士として扱ってきた医療事故について、明らかにできる範囲で、読者のみなさまに情報を提供していこうと考えています。
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