患者・医療人に選ばれる病院を目指して
佐賀県唯一の大学病院として地域医療の中核を担う佐賀大学医学部附属病院。今年4月に就任した山下秀一病院長に抱負などを聞いた。
◎国立大学病院として目指すもの
当院は、「患者・医療人に選ばれる病院を目指して」という理念を掲げています。
このため、具体的には、一、医療人の育成 二、高度な医療技術の開発 三、地域医療への貢献の三つの目標を挙げて実践しています。
佐賀県の最後のとりでとなる病院としての役割を果たしながら、地域に根差した大学病院づくりを教職員とともに進めていきたいと思います。
現在、国立大学病院を取り巻く環境はどこも大変厳しいもの。特に、経営的な問題は大きな課題です。
マネジメントのトップとして、経済的な基盤をしっかり固めながら、同時に、職員がやりがいを持って働ける環境をつくるのが、私の役割の一つです。苦しい時だからこそ、職員たちが、意見を言える環境にしたいと思っています。
◎総合診療部の30年の実績を踏まえて
宮崎大学から本学の総合診療部教授に着任し、現在も病院長職と兼務しています。
教授になって1年あまりで大学執行部に入り、その後、卒後臨床研修センター、病院長特別補佐などさまざまな部署を経験しました。3年目には副病院長、そして5年目の今年4月に病院長に着任。その立場の変化の速さに、まだ、少々戸惑っているところも実はあります。
しかし、本学に勤務した当初から執行部の事務担当者と実務で関わることが多く、経営や実務を見る機会も多かったので、その点は病院長の仕事にプラスになると思います。
大学病院の顔といってもいい「病院長」は多くの病院では高度急性期分野の責任者が担っている場合が多いものです。そのような中、国立はもちろん私立も含めて、全国の大学病院で総合診療部の教授が病院長に就任したのは、おそらく私が初めてだと思います。地方の大学病院において、総合診療部の果たす役割が今後重要になってくるという意味もあるのかもしれません。
実は、本学の総合診療部は、1986(昭和61)年、国立大学医学部の総合診療部としては、国内で最初に開設されたものです。
疾患名が不明で、受け入れる診療科が不明な時点であっても、まずは、「迷ったら総合診療部が患者さんを受け入れる」というスタンスでみんな頑張っており、その実績が、院内で評価されたと考えると、大変うれしかったですね。
◎就任から半年。今感じている課題
大きな課題は二つあります。第一は、研修医の確保です。本学医学部の学生は、福岡県出身者が多いという理由もあるのですが、卒業後、九州大学や福岡大学に戻るケースが見受けられます。
地域に若い医師を留めることをまず考えて、教育体制、研修体制を少しでも魅力のあるものにしなければいけません。足りない点があるのであれば改善する努力をしなければならないでしょう。
また、本学医学部は女性の比率が4割と他の医学部に比べて高いのも特徴です。このため、女性医師が結婚、妊娠、出産、子育てを迎えてもリタイアすることなく働き続けられるようなサポート体制として「ダイバーシティ対策室」が今年からスタートしています。
女性医師を支える体制づくりには病院も一緒に取り組みます。例えば、出産、子育てを経て現場に復帰する際の制度で、当院独自の「復帰女医制度」も設けました。
また、対策室は、女性だけでなく、障害を持つ人など、さまざまな立場の人が、みんな同じような状況で働けるような環境づくりを目指します。
二つ目の課題は、病院建物の再整備です。これまで、老朽化にともない、2011年から、救急棟、入院棟などを新しく建て替える工事を進めてきましたが、外来棟はまだ着工できていません。
建築計画は進めていましたが、東日本大震災、東京オリンピック、熊本地震などの影響で、建築費が高騰。当初の予算からは大きくかけ離れてしまい、計画の見直しをせざるを得ない事態が続いています。
しかし、建物自体は築30年以上というもの。現在進んでいる東棟の工事が、来年7月には終わりますので、来年には、計画を再スタートさせたいと思います。
◎病院長として心がけていること
心構えとして、教職員の話をきちんと聞くように意識しています。病院には、医師だけでなく、メディカルスタッフなど、さまざまな職種の職員がいます。まずは、それぞれの立場で、当院の問題点など、何でも言ってくれるような雰囲気をつくり、きちんと話を聞くことから始めています。
現在、当院の職員は約1500人。佐賀大学全体でみると、学生も含めて、9千人がいます。佐賀県においても、これだけの規模で人員を雇用している組織は他にはあまりないのではないでしょうか。そういう意味でも、病院や大学の運営は重要な責任があります。
佐賀県は酒井田柿右衛門(陶芸)、中島宏(同)など有名な作家が活躍し、焼き物、絵画などの豊かな文化が根付いています。佐賀大学には美術館がありますが、国立大学で美術館を持っているのは東京芸術大と本学だけなんですよ。
当院にも、焼き物や絵画、書などを寄贈いただいていますので、驚くようなコレクションもあります。院内の再整備が進んだら、院内画廊を改めて開き、患者さんに楽しんでもらえるよう展示していきたいと思います。