在宅医療をサポートし地域完結型医療を実現する
ー人口約5万4千人の山鹿市の高齢化率は34%。全国平均の26.7%を大きく上回っています。地域の病院としてどのような役割を担っていますか。
大病院ではありませんが、消化器内科、神経内科、循環器内科、呼吸器内科、腎臓内科、代謝内科といった分野の専門医が在籍しており、創立以来、内科中心の専門的な医療を追求してきました。
地方の病院はどこでもそうでしょうが、近年は高齢者の地域での生活をサポートする医療がメインになりつつあります。
山鹿市だけでも約1万8千人の高齢者が生活しており、近隣の和水町や玉名地域、熊本市北部、菊池市からも患者さんが来院されますが、いずれも高齢の方が非常に多い。
現在取り組んでいるのは、地域包括ケア病床を使った在宅支援や、在宅で治療するにしても病状が悪化したらすぐに入院治療できる体制をとることなど、可能な限り在宅生活をサポートするためのしくみ作りです。
ー認知症患者が800万人に達する時代が来るといわれています。
個人的には、大好きだった祖母が認知症にかかったこともあって、中学生時代から高齢者医療に対する問題意識がありました。「老年痴呆」と呼ばれていた時代で、現在と比べれば認知症に対する理解がなかった時代です。昼も夜もなく家族でケアを続け、最期は祖母の自宅で信頼する先生に看取ってもらいました。
高齢化に伴って増加している認知症については、私が主導して、2002年から認知症外来を始めました。認知症についてはまだ根治療法がありませんので、在宅での生活支援が必要になります。さらに、病院単独で支援することは難しいので、かかりつけ医や訪問看護ステーション、介護専門職、地域包括支援センターなどと積極的に連携をとる必要があります。
こういった問題意識から、この地域における連携体制として、「認知症支援ネットワーク」をつくりました。2007(平成19)年に開設し、それぞれの分野の専門家や地域住民の方々と連携を深めています。いまでは、この活動そのものが地域包括ケアシステムだったのかもしれないと考えています。
私自身の専門領域になりますが、神経難病の診療に長く取り組んできました。根治療法がない、急性期治療でも元気に帰ってもらうのが難しいなど、神経難病と認知症は共通する部分が多いんですね。
生涯にわたって関わる必要がある点も共通しており、ともに在宅での生活支援が非常に重要になります。認知症についてはそういった支援に取り組んできましたが、これはそのまま高齢者の生活支援にもあてはまるのではないかと、最近とくに思うようになりました。
この地域にも単身高齢者が増えており、そういった方の在宅支援は緊急課題です。一方で介護者と同居していたとしても手厚いサポートが必要なことにかわりはありません。とくに、認知症患者の徘徊(はいかい)や攻撃的言動、幻覚、妄想などのBPSD(周辺症状)によって衰弱する、介護者の悩みを受け止める精神的サポートが重要です。
高齢者や認知症、神経難病の患者さんに共通することですが、継続的なリハビリテーションが必要になります。運動機能を維持・向上させるためのリハビリであるし、認知機能を向上させるためでもあります。
在宅生活が可能になったとしても、長期間にわたって継続的な関わりが必要です。神経難病の方でいうと、元気な間は外来で定期的に診るだけでいいのですが、進行して嚥下(えんげ)障害が出たり肺炎になったりすると入院が必要になります。
肺炎の治療をして在宅に戻る、転倒して骨折したら連携する整形外科で手術して術後のリハビリとして入院していただく。これが在宅支援のためのサイクルであり連携です。ただ、病院内での関わり方だけだと、病状の進行が早くなる傾向がありますので、今後は訪問リハビリや通所リハビリなどを積極的に導入する必要があると思います。
ー医療や介護に代表されるさまざまな社会資源を使って地域住民を支える。そのために必要なものはなんでしょう。
私はほぼ毎日、午前と午後の外来を担当しています。金曜日の午前中は外来で午後が訪問診療、時々不定期の患者さんを診て、病棟も数十人の方を担当しています。11人の常勤医を抱えていますが、目指す医療を提供するためにはまだまだ医師が足りません。
当院で在宅支援している患者さんたちが肺炎になったり骨折したりした場合、これまでは、すぐに地域の公立病院を紹介していました。この地域では山鹿市民医療センターに紹介することが多く、そこでも受け入れが難しい場合には、熊本医療センターに紹介することになります。ところが、そういった病院に高齢の患者さんを受け入れてもらうことも難しくなってきました。
もともと、高齢者の方を遠方の病院に紹介するのには抵抗がありましたので、今後は対応が可能であれば積極的に当院を含む地域の病院で受け入れるべきだと考えています。
高度急性期については例外ですし、当院だけですべてに対応することはできませんが、「可能な限り診療する」と決めることが重要だと思います。こういった方針をとり、しかも患者さんが元気になるのであれば、国が進めている医療費抑制の方向性にも沿うのではないでしょうか。
そのためには、外科は除くとして内科疾患に関して「神経内科専門医だから神経内科しか診ない」といった態度ではまったく対応できません。
私自身、これまでは神経難病や認知症を中心に専門領域に対する能力を高めようという考えでしたが、最近は「ひとりの患者さんを、どれだけ総合的に診ることができるか」を考えるようになりました。決意の表れというわけではないのですが、昨年は総合内科専門医資格を取得しました。
当法人では、介護保険制度が始まるかなり前から、病院以外で高齢者を支える施設が必要になると考え、介護施設や介護老人保健施設を展開してきました。
地域完結型医療をさらに充実させるということでいえば、すでに病院だけで患者さんを支えるということが難しい時代になりました。訪問看護ステーションや介護施設、通所リハビリ、デイサービスなどの介護職や住民の方々が力を合わせて患者さんを支えることがますます必要になると思います。