阿蘇医療センター 甲斐 豊 病院事業管理者/病院長

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阿蘇地区を救った病院機能と外部支援

1987 熊本大学医学部卒業 同脳神経外科入局後、熊本地域医療センター、人吉総合病院、済生会熊本病院、熊本大学医学部附属病院、熊本赤十字病院、熊本大学医学部特任教授などを経て 2014 阿蘇中央病院(現阿蘇医療センター)院長

 今年4月の熊本地震発生時、阿蘇地区の救急医療を支えた阿蘇医療センター。甲斐豊病院長に、震災時の様子と今後の課題について聞いた。

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◆2日間で救急車30台急患200人

 前震のときはまだ、どの病院もほぼ通常通りに外来診療ができましたが、本震では停電、断水状態に。阿蘇地区で医療機能を維持できているのは当院だけでした。

 一気に急患が搬送されてきて、新規で平均約10人が入院する状態が6日間続きました。16、17日の2日間、当院で受け入れた救急車は約30台、急患は200人ほどです。病床数には限りもありますので、比較的軽症の患者さんには退院してもらわなければいけない。退院するといっても自宅が倒壊して帰れない人もいる。連携室では、一人ひとりに事情を説明して、入院・退院を調整することがとても大変だったと聞いています。

 報道では益城町、南阿蘇など、一部の地域がクローズアップされました。そのため、阿蘇にはDMAT、救護班の到着が一番遅く、先遣隊が到着したのは、17日の夜。「阿蘇は大丈夫だと聞いたけど、どうかな」と、たまたま様子を見に来た竹田市(大分県)のDMATが、急患の多さに驚いて、本部に連絡してくれたのです。

 東日本大震災のとき、約800チームのDMATが集結したにもかかわらず、チームの振り分けがうまくできず、十分な活動ができなかった。そこで震災以降、DMATを統括し、仕分けをする「統括DMAT」という資格ができました。

 今回は、その資格を持つ横浜労災病院救命救急センターの中森知毅医師が当院に来てくださいましたので、すぐに災害対策本部を設置し、各DMATチームの役割分担ができました。

 人材の確保についても、関係各所とスムーズに連絡がとれました。全日本病院薬剤師会からは薬剤師、熊本市民病院からは臨床検査技師三人と放射線技師、大分県放射線技師会からも毎日応援に来てもらえました。医師は諏訪中央病院(長野県)からの二人、石垣かりゆし病院(沖縄県)からの一人が、それぞれ一カ月間常駐。熊本大学病院からは医師二人と看護師四人を15日間派遣してもらい、患者を受け入れることができました。

◆情報共有と一元化で

 県の防災対策本部の下に地区ごとの防災対策本部ができ、トップを保健所長が務めています。阿蘇地区では、服部希世子阿蘇保健所長を中心に「ADRO(アドロ/阿蘇地区災害保健医療復興連絡会議)」という組織をつくりました。

 ADRO本部は当院一階の食堂、講堂。毎日午前7時30分と午後6時30分にスタッフ約40人が集まって会議を開きました。情報を一元化し、共有することで、関係各所への指示がスムーズにでき、震災後に避難所などで懸念される、ノロウイルス感染症や、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)が重症化することもなかったのです。

◆ハード、ソフトの 備えが奏功

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 2014年、阿蘇中央病院から阿蘇医療センターに新築移転するときの設計のポイントとなったのは「災害拠点病院としての機能」で、病棟・中央診療棟はすべて免震構造、事務棟は耐震構造にしていました。最下層の約70カ所には免振装置が設置され、横揺れに耐えられる造りになっています。

 そのおかげで、今回の地震では、最大約89cmの横揺れがあったにもかかわらず、一部の壁のパネルが壊れただけで、建物、医療機器、地下の配管など、大きな損傷はありませんでした。

 当院では、70tの地下水を二つのタンクに分けて貯めていました。熊本市内でも貯水タンクが壊れた病院が多かったようですが、当院では幸い壊れることもなく、上水の30tを合わせると100tの水が備蓄できていたので、3日間は、どうにかしのぐことができました。非常用電源は、フルパワーで3日間、省エネモードなら10日間もつ仕様です。

 電気と水を確保できていたので、透析治療も続けることができ、当院の患者さん31人に加え、新たに外部から20人を受け入れ、治療することができました。

 また、院内に設置している災害対応型の自動販売機(アペックス西日本)にも助けられました。有事の際には30日間、もしくは一万人分の飲み物を無料で提供できるしくみです。

 熊本総合医療リハビリテーション学院の学生20人が患者役になり、本番さながらのトリアージ訓練を実施したばかりでした。これまでも防災訓練はやっていましたが、全職員参加で、外部の人にも協力してもらって、さらにトリアージ訓練までやったのは初めてです。

 災害を想定して、建物の倒壊や道路状況などの情報を一元化し、全職員に一斉配信できるしくみをつくっておいたことも、大変役立ちました。

◆残る課題

 震災により、阿蘇地区の救急病院の一つ、阿蘇立野病院が閉院したため、南阿蘇方面からの患者さんが増えてきました。救急搬送件数も徐々に増えています。

 震災の前は、熊本市内から阿蘇市内まで車で約1時間ほどでしたが、現在通行できるのは山越えのルート一本。片道1.5~2時間、通勤時間帯はそれ以上かかります。山道ですから、冬場は凍結も懸念されます。大分県、宮崎県へ患者を搬出し、対応する方法はないか、それぞれの医師会と協議を始めているところです。交通アクセスの復旧には、3~4年かかるといわれています。その間の救急医療にどう対処していくかが、残された課題です。

阿蘇医療センター
熊本県阿蘇市黒川1266
TEL:0967-34-0311(代表)
http://aso-mc.jp/


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