次世代乳がん検診の夜明け
会長は田中眞紀・JCHO 久留米総合病院長
乳がん検診に関わる医療者が集う「第26回日本乳癌検診学会学術総会」が11月4日(金)・5日(土)、福岡県久留米市の久留米シティプラザで開かれる。会長は、地域医療機能推進機構久留米総合病院の田中眞紀院長。テーマ「次世代乳がん検診の夜明け」に込めた願いや概要を聞いた。
今、乳がんの患者数が急増しています。世界を見ても、女性のがんの中で、もっとも多くなっています。そんな中で、日本の乳がん検診受診率は非常に低い。後進国と言っていいと思います。
日本乳癌検診学会は、正しい検診の受け方や受診の重要性を市民に伝える啓発活動をすると同時に、検診に関わる職種が集まり、検診の中身を煮詰め、より精度の高いものにするための活動をしています。
検診は次世代へ転機はJ‐START
2007年から2011年にかけて「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するためのランダム化比較試験(J‐START)」が実施されました。
40歳代の女性を二つのグループにランダムに振り分け、通常のマンモグラフィー検診をしたグループと、それに上乗せして超音波検査を実施したグループで、発見率や精密検査となった率を比較したのです。
その結果、超音波検査を追加することで、がんが見つかりやすくなる一方で、がんではないのに精密検査を受けるケースも増えることがわかりました。ですから、現段階で言えるのは、「超音波検査もしたほうが良さそうだ」ということです。
検診の一番の目的である「死亡率を減らす」に対する効果の検証には、あと30年ほどかかるとみられていることからも、超音波検診を導入することのメリットとデメリットを総合的に見極める必要があるでしょう。
ただ、J‐STARTによって、乳がん検診が次の時代へと進むことは間違いありません。検診を、どのように進めていくべきなのか、クリアすべき課題は何なのか。今学術総会では、それを明確にしながら、次世代の乳がん検診を考えていきたいと思っています。
「個別化」の時代
乳がん患者が増えてくるのは、日本人の場合、40代から。その年代の日本人女性には、乳腺の密度が高い「高濃度乳腺」の人が多くいます。
国は、乳がん検診のガイドラインとして、40歳以上の女性は2年に1回、マンモグラフィーによる検診を受けることを勧めていますが、マンモグラフィーで撮影しても、約3割の人は乳腺が真っ白に映って、がんが見えない。ですから、これからは、その人の乳房の性質によって、検診方法を変える「個別化検診」の時代に入っていくと思います。
高濃度乳腺の人だけではありません。HBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)、肥満など、ハイリスクの女性も、一般的な人と同じ年齢から、同じ頻度で検診を受ければよいというものではありません。実現可能な個別化検診とはどういうものか、それぞれの分野や検診方法のエキスパートの話を聞き、検討したいと考えています。
進歩に伴う新たな課題
乳がん研究は世界中で進み、医療機器も技術も進歩しています。
その中で、「ゼロ期のものすごく早期のがんや前がん病変のような、命に関わらない乳がんを見つける必要はないのではないか」という議論も、世界にはあるわけです。過剰診断が過剰治療、医療費の高騰につながる。経過観察にしても、ずっと不安を抱えて通院することになる、と。
一方で、現場で検診する人は、小さなものでも見逃さないよう、必死で読影し、判定をしています。女性の立場としても、「将来がんになる可能性があるならば少しでも小さいうちに取ってしまいたい」という気持ちがある。今回は、その話題、現場のジレンマも取り上げています。
さらに、良性腫瘍が見つかった人の経過観察をどこでするのかという課題や、マンモグラフィー検診と比べると遅れている超音波検診の精度管理の問題も検討します。この学会が、より良い乳がん検診、国民のためになる検診につながることを願っています。