大学病院で全国初。腹腔鏡手術とロボット手術の先進医療施設に認定
島根から世界最先端の医療を発信
◆集約化の問題点
日本産科婦人科学会では医療資源の集約化を推進しています。しかし、集約化と言っても都会と地方では医療事情が大きく異なります。
都会は狭い範囲にたくさんの病院があります。集約化することで施設ごとの医療資源が充実し、良質な医療が提供できるようになるでしょう。病院までの距離もそれほど違いはないと思うので、患者さんのメリットは大きいと思います。
しかし、島根県のように面積が大きくて、病院が少ない地域でこれ以上の集約化をすると、出産できる施設が出雲市と松江市などの都市部だけになってしまいます。
私はお産とは究極の福祉であると考えます。お産のリスクばかりを強調するのではなく、地元でお産ができる体制を大学としてサポートする方向にも考えていきたいと思っています。
しかし、当教室から派遣する人材が少ないのが現状です。とにかく入局者を増やさなければなりません。それが私の最も重要な使命ですね。
研修医が産婦人科の魅力、すばらしさを感じ「この道に進みたい」と思ってもらうには実習中にお産を見学してもらうことが重要です。お産を見学することなくして産婦人科への入局はあり得ません。まずは当院でのお産を増やし、見学の機会を増やしたいと思ってやってきました。患者さんの立場からすると男子学生にお産を見られるのは嫌だとおもいますが、近年では当教室に限らず産婦人科入局者の7割以上は女性であり、男性の産婦人科医を増やす観点から、できる限り見学にご協力いただくようにお願いしています。
◆8月に周産期母子医療センターを設置
2014年に教授に就任してからは外来を含む診療設備を改装し、患者さんが、快適にお産に向かえる環境を整備しました。また島根県では、まだやっている施設が少ない無痛分娩も導入しました。
だんだん患者さんが増えてきて、2014年の分娩数は年間約200人だったのが、今では約500人にまで増えました。
今年の8月から病院内に「周産期母子医療センター」を設置しました。NICU(新生児特定集中治療室)が6床、GCU(継続保育室)が9床です。GCUは将来的に12床にまで拡充する予定です。
◆世界トップレベルの医療を
学生や研修医がなかなか集まらない原因は「島根大学は田舎なので、高度先進医療ができないだろう」と思われているのも一つです。
しかし当院は子宮体がんの腹腔鏡手術の認定施設ですし、子宮頸がんの腹腔鏡手術の先進医療認定施設でもあります。また手術支援ロボット「ダビンチ」の全国で数施設しかない先進医療認定施設のうちの一つです。腹腔鏡手術とロボット手術両方の先進医療認定をされている大学病院は全国で私たちだけであり、田舎であっても、全国トップレベルの医療ができることを、学生や研修医のみなさんに知ってもらいたいですね。
お産を増やすことと高度先進医療、特に腹腔鏡手術を全国トップレベルに引き上げる目標は、おおむね達成したと感じています。これから研修医が何人入ってくるか楽しみですね。
◆世界初の自律神経子宮枝温存術を開発
子宮頸がんは子宮入り口の頸部にできるがんです。子宮頸がんに対する子宮温存治療として開発された広汎性子宮頸部摘出術は、頸部を摘出し、残った子宮体部と膣をつなぎます。しかし、この手術にはリスクがあります。残った子宮体部にがんが転移していない保証がないからです。したがって、早期で転移の可能性が少ないケースにのみ、この手術は成立します。
頸部摘出ができたからそれで終わりではありません。子宮頸がんは若年層に急増しているがんですが、頸部がないと流産の可能性が高まるのです。受精して赤ちゃんが育つのは子宮体部。頸部がなくても妊娠に問題がないと思うでしょう。しかし、そう単純な話ではありません。
また妊娠率の低さも問題です。その原因は子宮頸がんになった時点でパートナーと別れ、治癒した後も引っ込み思案になってしまい、パートナーができないなどの社会的な背景が一つ。もう一つの原因は臓器的な問題です。
子宮は自分の意思で動かせない臓器で、自律神経が支配していると考えられます。月経時に血が出るのは子宮が収縮しているからです。一方、受精の時は射精された精子を吸い込むような蠕(ぜん)動運動をします。この収縮や蠕動運動をつかさどっているのが自律神経だと言われています。
子宮頸部には、自律神経の通り道があります。頸部を切除してしまうと神経も切れてしまい、子宮の機能と妊娠成立に重要な役割を損なってしまいます。そこで、切除の際に自律神経を避けて切る、自律神経子宮枝温存術を世界で初めて開発し、論文発表しました。
今後もここ島根の地で最先端医療を続けていき、世界に島根大学発の医療を発信していきたいと考えています。