情熱ある教育で医師不足を解消
―歴史のある病院だそうですね。
当院は、1923(大正12)年、加古川第一陸軍病院として開設され、1951年(昭和26)年に国立明石病院となりました。
2001年の、いわゆる「小泉構造改革」によって、一時は廃院の危機に直面しましたが、地域住民の方々の強い要望によって存続が決まり、明石市医師会に移譲。同年、明石医療センター(247床)として診療を開始しました。
2008年、老朽化した国立時代の建物から、新病院に建て替えました。2012年には、田畑胃腸病院と合併し、南館を増築。病床数は247床から382床に増えました。2015年に社会医療法人として認定され、2016年4月に社会医療法人愛仁会と法人合併し、現在に至っています。
―院長として注力されてきたことは。
私は、内科部長として赴任して13年、院長になって4年になります。専門は循環器内科ですが、総合内科診療にも力を入れてきました。高齢化とともに、合併症を持つ患者さんが増え、「専門領域だけで他は診ない」という姿勢ではやっていけない時代です。
救急外来もすべて総合内科で受け入れている状況で、最近では救急患者の搬送数が増えてきました。一カ月に約300件。明石市内の約30%にあたる救急患者を引き受けています。
ここ数年、平均在院日数の短縮に伴い、地方では入院患者が減少しています。病院を縮小したり、病床の一部を地域包括ケア病棟に変更したりして、ベッドの稼働率を維持しようとしている病院も少なくありません。
そのような状況の中、「今の時代に病床数を増やして大丈夫か」と心配する声もありましたが、2015年の冬ぐらいからは満床状態が続いています。
それは、いわゆるマイナー診療科は置かず、地域の患者さんの需要の多い診療科にその分を投資して、循環器や消化器系、総合内科を中心とした診療内容を充実させてきたことが良かったのかもしれません。
例えば、眼科・泌尿器科は外来だけで、耳鼻科・皮膚科はありません。周辺の開業医院との連携ができていて、入院患者に対して必要があれば、往診に来ていただけます。
一方、当院が得意とする循環器内科は、不整脈のアブレーション治療の症例数で全国ランキング入りしていますし、PCI(冠動脈ステント治療)にも力を入れています。心臓血管外科の開心術の症例数は約200件で、兵庫県下6位です。消化器内科は、上部・下部内視鏡検査が年間で1万件を超えています。
また、周産期医療にも力を入れてきました。明石市の人口は約29万人。1999年頃まで増加傾向にあり、それ以降はほぼ横ばいです。出産件数は、年間約3000件と、周産期・新生児医療の需要が高い地域です。当院では現在、年間約1100件の分娩を引き受けています。
NICU(新生児特定集中治療室)も軌道に乗り、病床が少し狭くなりました。この秋に改築工事をして、NICUは3床から6床、GCU(継続保育室)は5床から10床に増床する予定です。
―研修医教育にも力を入れているそうですね。
2004年、新医師臨床研修制度のスタート直後、私がここに来たときは、まったく手つかずの状態でした。制度の施行から2年遅れで臨床研修病院になり、最初は3人の受け入れから始めて、一昨年からは定員が7人になりました。今のところ、フルマッチの状態が続いています。
神戸大学からの学外実習生も、1年あたり十数人の希望者をすべて引き受けています。
2週間の実習期間中は、愛情と情熱を持って、マンツーマンでしっかり教えます。実際に問診をしたり、診察をしたり、カルテを書いたり、とにかく学生を退屈させません。一見雑用に見えるようなことでも、本人たちはやりがいを感じているようですよ。
特別難しいことを教えなくてもいい。こちらの情熱を伝えることが何より大事です。「医師の仕事は楽しいやろ、やりがいがあるやろ、それで感謝されるなんて最高やろ」ということを教えることが一番大切なのだと思います。
朝から晩まで本気で学生の相手をするには、かなりの労力が必要です。しかし、そういう情熱を持った人が病院の中に一人でもいれば、「研修医がこない」「医師不足だ」などという状況にはならないはずです。学生に向き合い、とことん相手をして大学に帰しています。研修医に対しても同様です。
実習学生の数が少なかったときは、私一人でやっていましたが、総合内科が大きくなってきてからは、組織全体で教育できるようになりました。 ただ、全員が総合内科を目指しているわけではなく、中には、できるだけ早く専門医を取得したいと思っている医師もいます。今後は、個人個人に合った、多様な研修プログラムを作成する必要があると考えています。
医師不足を解消するには、情熱のある教育しかありません。開院当初は医師が20人と、少ない時代もありましたが、研修医教育に取り組んできたことで、現在は116人にまで増えました。
どの職業でも経験に応じてやるべき仕事があります。本来は新人がやるべき仕事をベテランがやらざるを得ない職場環境より、新人もベテランも、それぞれが経験や年代に見合った仕事ができる環境の方がいい。そういった意味で、バランスのとれた職場環境づくりが大切だと思います。
働きやすい環境が整えば、ベテランの医師たちも集まってきてくれるのではないでしょうか。