その人らしい「最期」を支える
6月1日、福岡県大野城市に開院した「かんた内科医院」。地域のかかりつけ医を目指し、外来診療だけでなく、在宅医療にも力を入れる。菊間幹太院長に、開院の理由や思いを聞いた。
■消化器内科 → 救急 → 訪問診療・緩和ケア
医師を志したのは、中学生のころ。サッカー部の顧問に勧められたことと、義兄が医大生だったことがきっかけです。
大学卒業後は福岡大学筑紫病院内科・消化器科に入局。研修医2年目に、当時の同科教授、八尾恒良先生の御配意で、癌研究会附属病院(現 がん研有明病院)に国内留学をさせていただきました。そこでは多くのがん症例を経験することができました。ただ、同期の多くは救急をローテーションしており、私は、救急を経験していないことが、何となく心残りでした。
そこで、4年目から久留米大学病院高度救命救急センターに行かせていただきました。久留米大学医学部救急医学講座教授(当時)の坂本照夫先生の下、集中的・集学的治療が必要な病態の管理でのバイタルサインの重要性や身体所見の取り方・評価の研鑽を積み、さらに、ドクターヘリのフライトドクターとしても経験を重ねました。
現在、患者さんのご自宅など医療機関外での診療に積極的に取り組めるのも、その経験があるからだと思います。この救急医療・集中治療での「病態を把握し、優先順位をつけて判断する力」は、多疾患が併存する高齢者の診療においても非常に役立っています。
大学院で博士号を取得後は、医療法人社団扶洋会秦病院に就職しました。同院院長の秦洋文先生は救命センター時代にお世話になった方で、大学院時代にも同院でアルバイトさせてもらっていた縁がありました。
外来診療の中で、患者さんに付き添って来院されたご家族の言葉は、今も鮮明に憶えています。「仕事を休んで通院に付き添っているけれど、本当に大変。訪問診療などは始めないのですか?」と。訪問診療・往診という在宅医療のニーズを肌で感じた瞬間でした。
同時期に社会福祉法人悠生会の永沼泰理事長からこの場所での医院開設を打診されたこともあり、医院開院と在宅医療への従事を決意しました。その後、外来と訪問診療のミックス型クリニックや病院の緩和ケア病棟(ホスピス)での勤務を通じ、訪問診療や緩和ケアのあり方を学び、準備を重ねてきました。
■"ご当地"地域包括ケアシステムの構築のために
超高齢社会の日本では、在宅療養のサポートが今後さらに重要になっていきます。2018年度からの第7次医療計画策定に向けても、在宅医療及び医療・介護連携のワーキンググループでの協議が開始されています。
ただ、在宅医療に関わっている医師や看護師はまだ多いとは言えません。人口構成が変化してきている以上、それに合わせた形での医療や介護の提供体制が構築されてしかるべきですが、十分ではないのです。
国の旗振りで、2次医療圏ごとの地域医療構想策定が進んでいます。これは中学校区単位での地域包括ケアシステムの構築を図るためです。その地域のニーズを踏まえ、医療や介護をどう組み立てていくのか。それが求められている時代です。
今年4月の診療報酬改定では、地域の「かかりつけ医」「かかりつけ薬局」などが評価され、その役割は今後さらに大きくなっていくでしょう。しかし、本当に「かかりつけ医」としての役割を果たそうとしたとき、外来診療だけでは不十分。高齢の患者さんの場合、認知機能や下肢筋力の低下が進むと、通院できなくなってしまうからです。
ですから、当院では通院が可能な患者さんは午前中の外来診療で、通院が困難となった患者さんは午後の訪問診療で対応させていただいています。往診依頼もあるので、私は開院以来、ほとんど医院に泊まっています。高齢の患者さんは、いつ何があるか分からないですし、何かあったときにはすぐに駆けつけたい。それが、患者さんやご家族の信頼や安心感に繋がると思っています。
■在宅医療の質を高め、保つ
移動時間を減らし、時間の多くを診療に費やしたいと考え、訪問診療の範囲は半径3km。この距離なら、訪問診療中に外来診察の依頼がきても対応できますし、逆もしかりです。
当院の通常の訪問診療・往診は医師と看護師の二人。でも、初回往診や、何らかの処置を行う時は、医療事務スタッフも一緒に同行することにしています。これは、スケジュール調整や算定・請求業務などに関わるスタッフも在宅での診療を知っておくことはもちろん、患者さんやご家族と顔を合わせ、「医療・介護保険制度の仕組みの中で、この患者さんに対してできることは何かないか?」と考えることが大切だと思うからです。
今は、2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代。さらに今後は、"がん多死社会"が到来します。
住み慣れた場所で最期の瞬間を迎えたいと願う方の思いを支えること、体の痛みだけでなく、心の痛みも分かち合いながら、その人らしい最期を整えることは、「かんた内科医院」の一つの責務です。最期を迎える方と向き合う時、身体的ケアを含め介護ニーズは増加しますが、医療ニーズは徐々に減少していくように思います。医療者と患者というよりも、"人と人"。それが最も重要な要素になってくると感じています。
ですから、当院では毎日朝と夕方、スタッフ全員で患者さんの情報を共有しています。いつ患者さんやご家族から連絡が来ても、そして誰が対応しても、「そうでしたね、うかがっていますよ」と答えられるようにすることで、安心してもらえるのではと考えています。
■多職種が一つの建物に
当院の入っている社会福祉法人 悠生会の「悠生会地域包括ケアセンター」には訪問歯科診療も行う「ゆめ歯科クリニック」と24時間対応で配薬や服薬管理をする「薬局クオラス」も併設されています。
さらに一日最大139人のケアを可能にした大規模デイサービスセンター、在宅介護支援センター、ケアプランセンター、訪問介護ステーションもあり、まさに地域に根差した地域包括ケア実践のための「かかりつけ施設」です。
さまざまな職種の顔が見える関係・連携を通じ、効率的な地域包括ケアシステム(=ご当地システム)を構築するための基盤ができあがったと確信しています。地域住民の方々とともに、一丸となって前進していこうと思っています。