大事なのはチーム力
「平等医療、平等介護」の理念の下、52年に渡って地域医療を続けてきた医療法人伯鳳会。M&A(企業の合併買収)によってグループを拡大し、現在は、8つの病院を中心として、診療所、介護老人保健施設、医療専門学校など、60を超える事業所を運営している。古城資久理事長に話を聞いた。
―グループの規模が大きくなると、統制が難しくなるのでは。
新たにグループに加わった病院には、運営がある程度落ち着くまで、看護部長、人事、経理、リハビリスタッフなどを一時的に派遣しています。半年〜1年の長期に渡ることもあり、職員にはかなり苦労をかけていると思いますね。
本来なら、直接出向く人員を最小限に抑え、本部から遠隔操作する方が効率的かもしれません。しかし、私は人に任せてやることには自信がないし、遠隔操作だと、法人の平均経常利益率に追い付くのに時間がかかりすぎ、安定成長は難しいのです。
M&Aのやり方は企業によってさまざまです。地域の文化や特色をそのまま生かした経営をする方法もありますが、それでは経常利益率が良くない。私は常日ごろ職員に対して経常利益率を最低10%は維持するように言っています。
職員の努力もあり、赤字の病院であっても、M&A後2カ月目からは黒字の状態を維持できています。
父から病院を受け継ぐ直前の1999年、2000年は連続赤字でした。売り上げ53億円に対して借り入れが56億円。自己資本比率が7.7%しかなくて。最初の数年間はとにかく必死でした。もうあんな思いはしたくないし、職員にもさせたくないですね。
ですから、ある程度キャッシュフローに余裕がある状態を維持しながら、グループを拡大していくようにしています。理事長就任当時、約50億円だった売り上げは、18年間で約360億円、7倍以上になりました。想定しているリタイアは70歳。それまでの13年間でこれを2〜3倍に増やしたいと考えています。
―経営やマーケティングについてどんな勉強を。
経営の基礎だけは、中小企業家同友会で学びましたが、その先のノウハウは独学です。誰かに教えてもらうことなんて、すでに手あかがついていて時代遅れだと思うのです。
倉敷紡績(クラボウ・大阪市)、倉敷中央病院(倉敷市)などの創設者である大原 孫三郎氏は、新規事業を立ち上げる際、10人に聞いて5人が賛成したら実行しませんでした。始めるには遅いと思ったそうです。2、3人しか賛成しないときが始めどきで、1人しか賛成しないときは危ないからやらなかった。考え方が私と似ているなぁと思いました(笑)。
M&Aによってグループを大きくしてきましたが、今までに周囲が買収に賛成した物件は1つだけ。あとはすべて赤字だったり、倒産していたり、競売にかかっている病院で、私以外は全員反対でした。
M&Aの対象となる病院を見る時の大きなポイントは3つ。①つぶれた原因がはっきりしていること②将来的にもある程度の人口が確保でき、高齢化が進んでいないエリアであること③立地が良く、一定以上の規模があることです。
そして、病院経営で一番大事なものは建物。二番目はお金。三番目は人です。「人が一番大事」という考え方もありますが、人は必ず入れ替わります。何十年も同じ病院で頑張っている人は、まれなケースです。「人」に頼るのではなく「建物と立地」に頼る経営をすべきだと思います。
専門病院は別として、カリスマドクターがいたとしても、その話題性は3年ぐらいしか続きません。それより必要なのは、普通の人がどれだけ力を発揮できるかということ。普通の人たちによる日常の力、つまり「チーム力」が重要です。
私は高校の頃から13年、アメリカンフットボールの選手でした。アメフトは、ポジションごとに選手の特性が違い、それぞれ違う役割を担っています。1人のスター選手がどれだけうまくても、チームの総合力が弱ければ勝つことはできません。サッカーなどと違って、選手交代が自由で何度入れ替わってもいい。そのときに、いいパフォーマンスができる人がフィールドに入ります。そして、それは病院経営にも通じる考え方です。人がどんどん入れ替わっても、その時その時最良のメンバーならそれでいい。
私の後、グループを任せるなら、どちらかというと若くて無鉄砲なくらいの人がいいですね。今の経営スタイルにこだわらず、ぜひ自由な発想で思い切ったことにチャレンジしてもらいたいと思います。
―2017年7月には大阪陽子線クリニック(仮)が開業するそうですね。
5年程前、大阪暁明館病院を同じ此花区内の環状線西九条駅前に移転した際、跡地を何かに利用できないかと考えたのが創設のきっかけです。
関西地区では、兵庫県立粒子線医療センターに次いで二番目、大阪府内では初の粒子線治療施設。JR西九条駅から徒歩約15分、交通アクセスもいいところです。
設置するのは陽子線装置だけではなく、複数の方向から放射線を照射するIMRT装置も入ります。がん病巣の位置や形状に合わせ、最適な放射線治療を選択することができます。
国立がんセンターの発表によると、2015年のがん罹患数は約98万例、死亡数は約37万人と推計されています。今後ますますがん医療、中でも低侵襲である放射線治療のニーズは高まります。
大阪市近郊にはまだ陽子線の治療施設がありません。がん診療の拠点となれるよう努めていきたいと思います。