地域に貢献し、患者さんとご家族に「勇気・夢、そして笑顔」を届ける
―年間1600件を超える分娩、4000件を超える周産期と小児の手術など、センターは日本有数の「周産期および小児医療の専門施設」です。
当センターが1981(昭和56)年に開設されて今年で35周年を迎えました。設立当時は府内の妊産婦死亡率が高かったため、周産期医療を充実させる目的で設立された機関です。
当初は周産期専門の病院で母子のみを診療対象としており、そのような体制は国内で初めてでした。いわゆる「子ども病院」は他にもたくさんありますが、出産時点から母子をきちんと診る体制を整えていたことは画期的だと思います。
1日の外来数は昨年の平均でみると716人です。病院規模からすればもっと増えていいと思いますね。375床が認可されていますが、工事中などで使用できないものを除く337床で運用しています。
一般病院や大学病院と比べると規模は小さいのですが、小児病院としてすべての科をそろえており、子どもにとっての総合病院という位置づけです。さらに、母性内科という日本で初めての妊婦のための内科を置いています。
ほとんどが紹介の患者さんですが、産科については紹介なしでも受け付けています。
―少子化が進むなか、センターに求められている医療とは。
もともとは専門性の高い疾患や先天的疾患が診療の主流でしたが、それだけではなかなか症例が集まりません。少子化、少産化が進んで子どもの数が減っていますので、もっと一般的な疾患まで診療を拡大しています。結果的に難しい症例が集まる傾向にありますが、それは府内の小児医療において当センターが果たすべき役割なのだろうと思います。最近ではこちらから地域の医療施設をまわって紹介をお願いするなどしています。
―子どもが重い病気にかかった場合、親に対するケアも必要ですね。
子どもの診療独特の難しさがあります。診断結果などを親御さんに説明するのですが、たとえば手術や入院が必要となると、親御さんご自身なら耐えられることであっても、子どもには痛いこと、不快なことを少しでもさせたくないという気持ちがあります。
また、ご両親だけでなく祖父母など周囲の方々の思い入れも強いので、手術はうまくいって当然だと思われることがほとんどです。医療訴訟が増えているなかで、子どもの診療については特に繊細にならざるをえません。
子どもの数が少ないぶん、一人ひとりにかける気持ちが大きいのでしょうね。かつてに比べるとさまざまなことを細かく説明しますが、こちらの気持ちとしては、重篤な病気であることだけでもたいへんなのに、あまり説明しすぎるとかえって動揺しないだろうかという心配もあります。
―大阪府は子どもの虐待対応件数が全国最多。病院や行政、警察の連携が必要になります。
しっかりと言葉で伝えられない子どももいますので、虐待などについては病院なり医師が兆候に気づくべき状況も出てくるでしょう。
虐待が疑われる場合の対応について、当センターはかなり以前から対応指針を決めています。単なるけがであっても「虐待が疑われる」ということで他院から紹介を受けることもあります。
センターにはCAPS(院内虐待対策委員会)を置いており、虐待が疑われる際には委員を集めて検討したり児童相談所に通報するなど迅速に動きます。
虐待が疑われる場合に、親が子どもを家に連れて帰ろうとすることがありますが、虐待である可能性が高いとなった場合には親が迎えに来てもわからないように子どもをかくまったりすることもあります。
―成長する子どもたちをどのように見守りますか。
開設から30年も過ぎると、ここで診ていた子どもたちが結婚したり、妊娠、出産したりすることも多くなりました。患者さんの年齢制限がないこともあって、子ども時代から成人しても受診を続けている方も増えてきました。
これまでは紹介患者さんの受け入れに力を割いてきましたが、今後はしかるべき成人施設に患者さんを紹介する場面も多くなるでしょう。患者さんのことを考えたら、いつまでもここに居ることが最良の選択肢ではないこともあります。
もっとも、実現には障壁もあります。小児期の病気を持ったまま成人期に達したとき、それを診療できる成人の病院があまりないのです。心臓疾患などではセンターで20歳くらいまで診ることがありますが、成人の施設が小児疾患のことをよく知らないということもあって、引き継ぐことが難しいですね。
子どもの心臓病の手術では、フォンタン手術(上大静脈と下大静脈を肺動脈につなぐ手術)などが有効ですが、手術した子どもが成長して成人に近づくと不整脈などの問題が増えてきます。その段階で成人の病院を受診しても、引き継いだ医師はなにが起こっているのかわかりにくいこともあります。こういったことを考えると、成長とともにさまざまな病院との連携や情報の共有が必要になってきますね。
成人の施設に移った後も、困ったことがあった時や急性期感染症などはこちらで対応することもあります。ある程度の期間はセンターと成人用施設が重複して診療するとか、なにかあった場合にはすぐに帰ってこれるようにしないと、年齢だけを基準に転院させることはできませんし、親や本人も不安だと思い
―病院の効率経営などがさらに求められる時代になります。
設立から35年経過したことで建物の老朽化が進んでいます。手術室が不足していたこともあって、2014年5月に手術室とICUだけは新しくしましたが、給排水設備が不十分ですので、センター全体の耐久性としては、あと10年が限界だと思います。
新しくするにあたって、建て替えか移転かということも議題に上がると思いますが、今後は総合病院や大学病院との連携が重要になりますので、そうした要素を十分に吟味して検討すべきですね。
今後10年を考えると、おおげさにいえば生き残り作戦も必要です。病床数を減らしてこじんまりとした急性期病院になるのか、規模は変えずに対象となる患者さんや対応する疾患のタイプを変えるのか。
経営の効率化は当然考えていくべきですが、そもそも子どもの医療は国民全員で支えていくべき性質のものではないでしょうか。成人の病院と競い合って利潤を生んだり黒字にするのは構造的に難しいです。
大阪府立病院機構は5病院をひとつのものとして運営していますので、私たちも努力はしますが、経営効率に定評のある大阪府立急性期・総合医療センターにはどんどん"稼いで"ほしいと思いますね(笑)。
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