掖済の精神で患者のために
―ずいぶん歴史のある病院だそうですね。
日本海員掖済会は、1880(明治13)年、日本の近代郵便制度の創設者の一人である前島密(ひそか)を中心に設立されました。明治政府の意向によるもので、船員の健康改善が目的でした。
当院は、1913(大正2)年、大阪市西区に診療所として開設し、2013年に100周年を迎えました。現在は、11階建ての1~7階は病院で、総病床数135床(急性期病床)、8〜10階は介護老人保健施設「えきさい大阪」として運営しています。
「掖済(えきさい)」とは、relief(救助、救済、緩和)の和訳です。「掖(わき)から手を添えて支え、助ける」という意味が込められています。
―12代目の院長に就任されて2年間になります。
ここに来るまで、大阪市立大学病院で消化器外科として15年間勤めていましたので、ここに赴任してからも紹介患者さんが多く、院長になった今でも、変わらず手術をしています。
本部理事会、医師会などの仕事のほか、診療報酬や保険の仕組みなど、勉強することも多く、まだまだ院長として満足のいく仕事ができているとは言えません。職員のみんなと共に歩んでいっているという状況です。
現在抱えている大きな課題は、変わりゆく医療情勢の中で、いかに生き残っていくかということです。大阪市西区エリアには、急性期の病院がいくつもあります。その中で当院ならではの特色を出していかなければいけません。
そのために、私が掲げているスローガンが「Hospitality(ホスピタリティー)&Speciality(スペシャリティー)の充実」です。患者さんに安心して来てもらえるように、接遇の改善やQC(品質管理)サークル活動などを通じて、職員一人ひとりの意識改革を行っています。同時に、患者さんには常に最善の医療を提供できるよう、医療の質の向上にも日々努めています。
私が来る以前の当院は、循環器内科がメインで、虚血性心疾患の患者さんが多く搬送されて来るなど、西区の核となるような立ち位置の病院でした。その後、近隣の病院でも循環器疾患を積極的に受け入れるようになったため、次第に患者数が減少。さらに大学医局からの医師を派遣してもらうことも難しい状況になり、方向転換せざるを得なくなったのです。
―いくつか改革をされました。
整形外科では、2015年4月、 切断肢接合が専門で国内有数の実績を持つ、五谷寛之医師を迎え、「手外科・外傷マイクロサージャリーセンター」を開設しました。労災事故や外傷で切断された手足や四肢の緊急接合術には、日曜日を除き24時間体制で対応しています。
顕微鏡下の四肢外傷切断指再建術を開始 したことで、思ったよりも早く認知度が上がり、昨年1年間の症例数は約60例と、何とか軌道に乗せることができました。
今年の4月には、消化器内科の宇野裕典副院長、真下勝行部長を中心に、消化器内科を5人体制に増やしてスタートしました。早期胃がんに対するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)、ERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影)なども実施しています。吐下血、消化器管出血に対しては365日、受け入れ可能な体制です。
私の専門でもある消化器外科では、胃がん・大腸がんを中心とした消化器がんに対する開腹・腹腔鏡下手術を実施。大学と同等の治療実績を維持しています。
―人材確保については。
当院は、7対1看護体制ですが、種々の取り組みにより、最近では離職率も下がってきている状況です。ただ、手術室の運営については、なかなか難しい面があります。小さい病院でありながら外科と整形外科と眼科の三つの手術をやっているため、手術室看護師は不足している状況です。
勤務時間が流動的なこと、手術室でしか患者さんに接する機会が少ないことなどが理由のようです。私は外科医ということもあり、「手術場はやりがいがあるのにな」と思うのですが、希望者は
薬剤師も不足しています。勤務時間や給与など、待遇がいいためか、調剤薬局へと人材が流れてしまっているようです。薬学部は6年制になったことで、基礎的な薬学の知識・技術だけでなく、医療人としての幅広い知識を身に付けることができるようになりました。その力を、もっと病院の中で発揮してもらいたいと思います。そうでないと、病院の運営はスムーズにいきません。
診療では、リハビリが必要となる患者さんの占める割合も増えてきています。PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)は、今のところある程度の人員は確保できていますが、今後のことを考えると、もう少し増やしていきたいですね。
―スタッフに望むことは何ですか。
この2年間は、診療体制の再編などで忙しく、細かいところにまで目が行き届きませんでした。やっと今年7月から「経営戦略会議」を動かし始めました。各部署ごとに問題点を出し合い、今後の運営についてみんなで討論し合えるようにしたいと考えています。
この病院は、私一人で運営しているわけではありません。職員一人ひとりが考えたことが、すべてこの病院の運営、提供する医療につながっているということを忘れずにいてほしいですね。
ここ数年で医療を取り巻く環境は激しく変化しています。今まで通りのことをやっていては、ついていけない時代です。いつまでも昔のやり方に固執せず、新しい発想を持って仕事に励んでほしいと思います。