未来を見据えた地域中核病院に
少子高齢化による影響が先行して進む地方都市。鹿児島県指宿市はいち早く人口減少が進み、高齢化率も35・5%(2015年度)という超高齢社会だ。
地域の医療課題に取り組む指宿医療センター田中康博院長に話を聞いた。
―地域での医療センターの役割は。
一番重要なのが救急医療です。指宿市は医療資源が少なく、人口も減少しています。また、医療に対する投資の費用対効果が悪いこと、開業医の高齢化など、さまざまな問題と直面しています。
そのような中で、当院と医師会、指宿市は「指宿モデル」とも言うべき救急医療体制を構築してきました。限られた条件のなかで、住民が安心して過ごせるシステムができあがっています。
その特徴は、病院群輪番制に病院だけでなく診療所も含めて市内の全有床医療施設22施設が参加していること、輪番医のほか無床診療所も同時に診療に関わる輪番サポート医という仕組みがあること、休日の昼間は、無床の在宅当番医が輪番医とほぼ同様の仕事内容で参加していることです。
さらに、救急搬送の優先順位を明確にし、まずは「かかりつけ医」、次に「輪番医」そして最後に「指宿医療センターなどの高度医療施設」が対応するようにしています。患者さんにとってはかかりつけ医に診てもらえる安心感がありますし、高度な救急施設にとって風邪などの軽症患者への対応が少なくなる利点があります。
指宿市の開業医は「この地で開業しているのだから、まず自分の患者はかかりつけ医が診るべき」という医師としての責任感が強く、そのことがシステムを支える原動力の一つです。
ある学会で私は、小児救急もこのシステムで対応していると発表しました。すると「小児科の医師でなくとも大丈夫なのか」という疑問の声もありました。しかし、それは都市の論理かもしれません。重症の場合は指宿医療センターの小児科医が必ず対応しますので、小児科だけの輪番制が作れなくとも、やっていけると思います。
救急車が出動して、5回以上連絡をしても搬送先が決まらなかったといういわゆる「たらい回し」について調査した数字があります。指宿南九州市医療圏では2014年度は7件、指宿市のみでは3件、鹿児島市は137件でした。人口10万人あたりの医師の数は鹿児島市が315.8人、指宿市は264.2人ですから、医師の数が少ないためにたらい回しが多くなるということではないということを示唆していると思います。
救急医療を地域で守るシステムづくりは、どの地方都市にとっても喫緊の課題です。「指宿モデル」が少しでも地方都市の参考になればと期待しています。
また、住民の皆さんが地域医療に関心を持ち、地域医療の実態や頑張りを理解できるような広報や啓発も大切だと思います。当院でも公開講座や健康フェスタを行って情報を発信しています。
―2019年春に新病棟ができるそうですね。
2007年に着任後は、三つの柱を中心に運営に当たってきました。
一つ目が「救急医療」、二つ目が消化器や泌尿器を中心とした「がん医療」、そして三つ目が産婦人科と小児科を中心にした「成育医療」です。さらに2015年からは眼科診療を始めました。
おかげさまで、2012年に黒字を達成し、老朽化していた病院の建て替えができるようになりました。2019年春の完成を目指して現在建設中です。
新病院は4階建てで、病棟、救急外来、手術室、透析室の機能を移転、集約します。手術室が2室で、3室目となるスペースも確保し、ハイケアユニット4床も設けます。
透析室は3床から10床に増床。救急外来も充実させます。これまでは、ベッドサイドに医療機器を置くのもやっと、という狭い病室でしたが、新病院では広さは約2倍になり、患者さんの療養環境も改善します。
指宿市は、現在人口4万人、当院の医療圏は6万人です。高齢化が進みすでに日本の2040年を〝先取り(先行医療)〞している状況です。予測では、当院の医療圏で、この20年で20%の医療施設が高齢化などにより撤退する見通しです。
そのような背景ですから、新病棟は40年後を見据えて、さまざまなシミュレーションをしました。急性期に偏った仕様の病院をつくったものの、地域に必要とされるのは慢性期だった、ということでは困ります。そこで、フレキシブルに対応できるような施設にしようと考えています。
ただ、運営の考え方は変わらず、救急医療、がん治療、成育医療の三つが要です。現在も、南薩医療圏で小児科の入院施設は当院だけです。やはり安心して出産や子育てができるということは、街の活性化の核となるもの。その役割を担うのが、地域中核病院の使命だと思います。