歴史を大切に専門性を進化
三菱重工業の企業立病院として約120年の歴史を持つ三菱長崎病院。今年4月に医療法人化し、「重工記念長崎病院」となった。矢部嘉浩院長に新たな取り組みなどについて話を聞いた。
◆運営の柱は予防医学や整形外科
三菱重工グループ職員約6千人の人間ドック・脳ドックなどの実績もありますので、予防医学部門は強みの一つです。
また、整形外科も大きな柱で、常勤医に加え長崎大学整形外科から週2日、脊椎外科専門医を派遣してもらい、60歳から70歳に増加している脊柱管狭窄(きょうさく)症、椎間板ヘルニア、変形性関節症などの手術に力を入れています。
手術後は、地域包括ケア病棟でリハビリテーションをしっかりとすることで、最終的な在宅復帰を目指しています。理学療法士を倍に増やすなど、リハビリに力を入れた結果、在宅復帰率は90%になりました。
整形外科では、年間約700例の手術をしていますが、そのうち脊椎外科の手術が約300例です。高齢化にともなって、脊椎・手関節・膝関節・股関節などの手術が増えています。また、手術やリハビリの評判が口コミでも広がり、長崎県内の広域から患者さんがお見えになっています。
4月からは、歯科口腔外科の手術も始めました。長崎市内の一般歯科では、全身麻酔を必要とする手術ができるところがほとんどなかったため、患者数が徐々に増加しています。
◆骨粗しょう症の治療に注力
骨粗しょう症の治療に力を入れている点は当院の大きな特長です。脊椎の圧迫骨折の患者さんを積極的に受け入れ、入院・手術・投薬・リハビリ治療を行っており、県内ではそのような病院はあまりありません。
骨折で寝たきりになり、それを機に認知症を発症するなど、高齢者の骨折は健康寿命の視点からも大きな問題です。骨折の大きな原因が、女性に多い骨粗しょう症です。
未受診者も含めると約1300万人の患者が全国にいると言われますが、残念ながらこれまで整形外科医は骨粗しょう症の治療にあまり目を向けていませんでした。
ところが最近は「ストップアットワン」というキャッチフレーズでご存知の方も多いかもしれませんが、骨折をきっかけに、骨粗しょう症と診断されたら、それ以上は骨折しないために、きちんと骨粗しょう症を治療しようという考えが国際的にも主流となってきました。
当院では、2010年に発売された骨粗しょう症治療薬「テリパラチド(フォルテオ)」による治療を積極的に取り入れ、250人程度の患者さんの治療をしています。
フォルテオは、最長2年間しか使用できないという条件はありますが、自己注射をしますと、骨が強くなり、また、骨折による痛みが早い時期に減るため、リハビリの効果も上がっています。
「日本骨粗鬆(しょう)症学会骨粗鬆症マネージャー」という認定資格がありますが、当院では、看護師、理学療法士など7人が取得。この数は県内でもっとも多くなっています。
患者さん一人ひとりに、骨粗しょう症の予防や治療について指導をするのが役目で、医師だけでは、とても治療に手が回らない現場では大変ありがたい存在です。
最近、骨粗しょう症予防の治療システムを人材育成も含めて作るという目的で「九州・沖縄地区OLS(OsteoporosisLiaison Service)研究会」が立ち上がりました。
私は、長崎県の世話人ですが、九州各県で骨粗しょう症の情報を発信する医療従事者が育てば、彼らが中心になって、骨粗しょう症による骨折を食い止める活動につながると期待しています。
県内では、病院での治療後に地元の開業医につなげて、引き続き治療が受けられるような骨粗しょう症プログラムの人的ネットワーク作りも進めたいと思います。
◆長崎港沿いに新病院
2019年開院を目指し、移転・新築を計画中です。新病院は、長崎港に面し、対岸からも見える位置で、夜はライトアップされると美しい景観になりそうです。
病室からも海が見え、全三つの各病棟に作るリハ室で、リハビリをする環境も充実します。近年、大型化している機器を導入しても、スペースに余裕がある手術室を考えています。
長崎市内は、医師の数や病床数も過密ですので、今後は病床数が減っても運営できる経営体質を構築します。
病院のブランド力をベースに、予防医学分野と整形外科、リハビリ分野を柱にした専門的な病院となれば、生き残りは可能だと考えています。
4月の法人化による独立は、職員にとっては不安もあったようですが、あらゆることが自分たちの責任で決定できるなどのメリットが大きく、今後の飛躍のチャンスととらえています。
新病院では、託児施設の設置を計画しており、特に女性の労働環境の整備も優先事項と考えています。