熊本地震から120日 人吉市周辺の動き
◎その時、人吉では
人吉市で観測された揺れは、4月14日の最初の大きな地震に伴うものが震度4で、2回目の「本震」と呼ばれているものでは震度5弱を記録しました。人吉医療センターの被害としては階段にひびが入った程度で、人吉市内も、熊本市内や益城町に比べるとそれほど大きな被害はありませんでした。
当センターは、地域の防災医療の要として定期的に防災訓練を実施していましたので、大きな地震にも動揺することなくスムーズに初動体制に入ることができたと思います(下欄の「活動報告」を参照)。
14日の揺れのあと、被害対策マニュアルに沿ってすぐに災害対策本部を招集し、被害・被災状況を把握しました。地域の被害が少なかったことから、おそらく患者さんを受け入れる立場になるだろうと判断すると、人吉・球磨地域で何人の患者さんを受け入れることが可能なのか、近隣病院も含めた空きベッドの数を把握しました。
人吉市周辺では、最初の揺れで転倒された方が1人、救急外来を受診しただけで、地震関連の病気やケガをされた方はほとんどいなかったと思います。被災して人吉に避難された方については、透析患者を受け入れたほか、数人の方が受診されています。 4月19日には、人吉市に近い八代市で震度5強を記録する大きな地震がありました。この時、当センターは八代市立病院に入院していた患者さんを5人受け入れています。球磨郡の多良木病院では25人を受け入れましたが、これは予防的避難と呼ばれるもので、病院建物が古くて耐震性に不安があるために取られた措置でした。
◎DMATの派遣
当センターはDMATを2チーム編成しており、14日の午後9時半ごろに発生した最初の地震を受けて、3時間後の午前0時すぎには1チームを派遣しています。16日の「本震」の際でも1チームを派遣しました。
DMAT基地には熊本赤十字病院が指定されていましたが、地震発生当初は九州道が被災して通れなかったので、到着までがたいへんでした。到着してからは、水を使えなくなった透析病院の患者さんを済生会熊本病院にピストン輸送したり、避難所や救護所の設営を手伝うといった活動を担当しました。
私は県の災害医療コーディネーターも担当しましたが、たとえば益城町の支援について特定の県を指定すると、基本的にその県が継続して支援していくという「エリアライン法」がうまく機能したと思います。
担当地区を決めることで計画的に派遣してもらえますし、細かな申し送り事項も県内の関係者同士で通達できるので調整がうまくいきました。
◎いかされた教訓と、残された課題
熊本県は一般的には大きな地震が少ない県だと認識されていましたが、個人的には、可能性はまったくのゼロではないと思っていました。益城町を通る布田川断層や人吉の南縁断層の存在は知っていましたし、県内にはほかにも断層がいくつかあります。地震が起こってもおかしくないとは思っていましたが、地震の規模は想像以上で、余震の多さも他の大地震と比べて想定外だといえると思います。
今回の地震はまだ継続中であるという認識で、急性期に関連しては学会などで活動報告がされていますが、地震全体を総括的に振り返ることはできません。
災害時の医療という点で、現段階では東日本大震災や阪神・淡路大震災の教訓がいかされていて、急性期の対応と急性期からの引き継ぎがうまくいったのではないかと思います。
もっとも、今後にいかすべき課題もあります。熊本市民病院では建物の老朽化の影響で多くの入院患者が熊本医療センターなどに避難しました。今回の地震で改めて病院の耐震化、とくに免震化の必要性が浮き彫りになったと思います。
熊本地震における人吉医療センターの活動(報告書より抜粋)
DMAT(災害派遣医療チーム)
人吉医療センターでは、DMAT を2隊(9人)配備している。4 月14 日に発生した、震度7 を超える熊本地震の「余震」の後、熊本県からDMAT 派遣要請が人吉医療センターに入った。チームは日付が変わる午前0時過ぎに指定された熊本赤十字病院へ向けて出発。3時間かけて、深夜3 時ごろに到着した。被害の大きかった地区に救護所を立ち上げるなどの活動をする中、明るくなるにつれて被害状況が明らかになった。
倒壊の危険がある益城町周辺の病院からの患者転院支援の業務にあたる。県外からの応援DMAT が続々と到着すると、県内の隊は自施設優先との指示があり午後9時頃には人吉へ撤収完了した。16 日の「本震」直後にも1 隊派遣した。県庁の医療救護班本部には下川副院長をはじめ業務調整員派遣の要請にDMAT 隊員を派遣した。
災害対策本部
14 日午後9時26 分、人吉市は震度4 の揺れを観測。大きな揺れを感じた職員は院内外から病院事務部に参集し、自動的に災害対策活動が始まった。
テレビなどの地震情報を参考にしながら、①災害規模の把握、②病院被害状況の把握、③地域の状況把握、④職員や患者さんの状況把握、を行う。各種災害対応ツールを設置し、各部から寄せられる施設状況と職員情報を記録。EMIS(救急医療情報システム)にも登録する。さらに、アマチュア無線を使って、DMAT 緊急車両が走る道路情報の把握や高速道路IC へ緊急車両通行の連絡を行う。
16 日深夜に再び震度5 弱の揺れがあり、病棟上層階の床頭台が倒れるなどの被害があったが、患者さんにけがはなかった。その他、透析やレスピレータ関連情報を含む地域の医療情報を継続的に把握し、厚生労働省DMAT 事務局、県庁、保健所、市役所、JCHO(独立行政法人地域医療機能推進機構)本部などとの連絡やメディア対応を行い、ドクターヘリや救急車による患者受け入れに対応した。