ベストな選択肢を提供する環境を
胃がん手術の権威として世界をリードしてきた二宮基樹医師。3月に広島市民病院副院長を退職し、5月に広島記念病院に開設された消化器センターの初代センター長に就任した。新センターでの取り組みなどについて話を聞いた。
―胃がん治療のリーダーとして長年取り組んでこられました。新センター長として今、感じておられることは。
広島市民病院では、23年にわたり胃がんの治療に取り組んできました。正確に数えたことはありませんが、胃がん手術に関しては約2000例にはなると思います。市民病院だけでなく、国内外で手術を行い、医師の教育にもあたってきました。
市民病院は743床と規模が大きくスタッフ数も同様に多かったのですが、こちらは250床と中規模病院です。
小回りがききますので、組織のフットワークも軽く、スタッフが柔軟に動けると感じています。
これまで広島市内には消化器センターを擁する病院はありませんでした。広島記念病院はもともと消化器疾患を得意としていますので、これに特化したセンターにすることで、この地域ではどこにもできなかったようなユニークないい仕事ができるのではと思っています。
センターでは、検診から精密検査、内視鏡治療、外科手術、化学療法まで総合的に行います。
予防にも力を入れたいと考えていますので、検診部門との連携も大切にします。
「良性から悪性まで、検査から手術まで。消化器疾患で困ったら記念病院へ」という存在になりたいと思います。また、セカンドオピニオンもぜひ活用していただきたいです。
―具体的な取り組みと、それによる患者にとってのメリットは。
新しいセンターは、消化器外科、消化器内科という従来の科の枠を取り払ったような組織を考えました。「Patient First」を大事に、2つの科が連携し合って、フュージョン(融合)していくようなイメージです。
そのために、センタースタッフの意識を共有化することが必要です。毎週1回内科、外科、放射線科合同カンファレンスを行うようにしました。
それぞれの科で完結できるものはいいのですが、科をまたがるような症例や、診断や治療の意見が分かれる症例などが対象となります。
内科と外科および放射線科が話し合い、知恵を出し合っています。また、単一臓器のカンファレンスではなく、上部・下部消化管、肝胆膵など、消化器全体を論議するようにしましたので、これまでに比べて、より視野が広くなり、専門領域以外の疾患に対しての理解が深まったと感じています。これは私にとって新しい発見ですし、センターの医師も同じように感じているようです。
カンファレンスを始めるにあたっては「本音が言えるカンファレンス」を作りたいと思いました。そのためには、上の立場の者が本音を言わなければなりません。
つまり、上の人間が「自分が間違ったな」と思ったら素直に間違ったと言うことです。経験のある人がすべて正しいというわけでなく、若い医師の考えが正しいということもあります。このようなカンファレンスができれば、率直な意見交換ができ、患者さんにとってベストな治療を選択できると思います。
また、これからの医療は、一つの病院ではなく地域で完結するものへと変わっています。このため、ごあいさつと地域の開業医の方との連携を深める目的で、市内約200の医院に足を運んでいます。
先生方と顔を合わせることで信頼関係をつくるきっかけになります。また、うかがいますと、その構えやアメニティーなど千差万別で大変勉強になります。小児科でなくとも、小さな子どもを持つ母親のための待合室があったりすると、その先生の心根が忍ばれます。
―今後、注力されたいことは。
後進の外科医の教育です。山本五十六の言葉の通り、外科医も「やって見せ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」です。
技術を伝えるためには、見せるだけでも、させるだけでもだめなのです。医師としての40年の経験を、学会や講演、セミナーなどで伝え、若い医師が無駄なことをせずに成長する環境を整えることが個人的なミッションだと考えています。
さっそく「二宮塾」とでもいいましょうか、当院で3カ月に一度の胃がんセミナーを始めます。
私が、胃がん治療において論議となっている各テーマについて、手術映像を交えながら、その歴史、論点、未来への観点などについて解説しようと思います。
第1回目は8月18日(木)で、テーマは「幽門保存胃切除術(PPG)」。広島県内の胃がんに携わる医師を対象にしますが、興味があれば他地域からも受け入れます。2019年までに、全11回を予定していますが、興味のある回のみの参加もできます。
私が得た胃がんについてのすべての知識をコンパクトにまとめ、本質に迫る内容にしたいと考えています。
国家公務員共済組合連合会
広島記念病院
広島市中区本川町1丁目4番地3号
☎082・292・1271(代表)
http://www.kkrhiroshimakinen-hp.org/