病気だけではなく生活にも目を
■パスポートを持って医学部に入学
もともと沖縄県の出身ですが、大学は信州大学医学部(長野県)を卒業しました。入学した1971(昭和46)年は沖縄返還(1972年)前でしたので、国費留学生という扱いでパスポートを持って入学しました。
当時、医学部に進学するには、まず沖縄県内で選抜試験があり、合格者が各地の医学部に振り分けられるという仕組みでしたので、自分がどこの医学部に行くのかわかりません。
合格した時、信州大学がどこの県にあるのかもわからないような状況でした。
■患者の生活も含めて診る医療を
卒業後はすぐに、沖縄に戻り、循環器内科の医師としてスタート。最初に赴任した病院では、医師が集会所などに行き住民に医療の講話を行っており、ある村で話す役目を仰せつかりました。
専門が内科でしたので、成人病の中でも、血圧についての話をしました。そのなかで沖縄の郷土料理〝スクガラス〞という小魚の塩漬けの話をして「塩分が高い食事は身体に良くない、特にスクガラスはダメです」と伝えて帰りました。
しばらく経って上司に呼ばれ「講演でどんな話をした」と聞かれて内容を伝えたところ「何だって!」となったんです。
聞けばあるシーズンにだけ獲れる魚で、その村はスクガラスの収穫によって、ある意味ボーナスのような収入を得ていたんですね。
ですから、「スクガラスはダメ」などという話は、村の生活に大きく関わる大問題になりかねないのです。私は慌てて村に謝りに行きました。
まさに、病気だけ診て、その人の背景となる生活を全く見ていなかった自分に気づかされました。
これをきっかけに、患者さんの生活を見ることの重要性を感じ、往診や訪問診療を積極的に行うようになりました。
そのスタイルは今も続けていますし、当院の常勤医師も共通の思いで、在宅診療、訪問看護などに取り組んでいます。
■医療人は謙虚であれ
医師や看護師など国家資格を持っていると「指導」という言葉に象徴されるように、つい上から目線のものの言い方になりがちです。
しかし、病院は、病気がなければ存在しない、つまり私たちはある意味、人の不幸で生活が成り立っているのです。ですから、職員にはより謙虚にならなければいけないと伝えています。
沖縄県では、私たちの世代は「共通語励行」という教育があり、方言を使ってはいけない、標準語で話すように、という教育を受けた世代です。ある日、おばあちゃんに検査結果を伝えるために「正常ですよ」と言ったんです。ちょっとけげんそうでしたが彼女は診察室を出ていきました。
しかし、しばらくすると戻ってきて不安そうに「正常というのはどこか悪いんですか」と方言で聞かれ、気づきました。沖縄の方言に「正常」という言葉がないんです。そこで「上等!」と言うと顔がパッと明るくなって帰りました。お年寄りにはお年寄りの文化があるんだと、大いに反省しましたね。
医療をやる以前の問題で、自分は、相手の立場になって謙虚に考えているか、そんな思いで職員には「医療人は謙虚であれ」と伝えています。
■禄寿会グループ各施設の連携
2003年に当院に入職した時、介護老人保健施設や訪問看護ステーションなど、病院と同様に福祉施設も充実していることに驚きました。禄寿会の理念は「最善の医療・保健福祉サービスを目指して」とあり、地域の高齢者の医療ニーズに応えるうちに、このように多様化したと聞き腑に落ちました。
現在、訪問診療、訪問看護、往診などでサポートしているのは160人です。毎朝の朝礼では、福祉施設のスタッフも参加して、院内だけでなく、在宅の患者さんの情報共有も行います。
加えて、毎週水曜日には、病院はもちろん福祉部門のスタッフも参加し、会議をすることで、患者さん、利用者さんの状況を把握しディスカッションします。
「私は病院」「私は福祉」といった縦割りの意識を持たずに、グループの連携が密なことも当グループの良さだと思います。
■今後の病院運営
当院の課題は後継者の育成です。地域密着型の医療、福祉を提供したいという思いは、私も病院長も、そして常勤医も共通の思いです。しかし、この思いを理解し、引き継いでくれる医師が育っているかというと、現実には厳しい。
幸い、今年4月から、硝子体手術の経験が豊富な琉球大学眼科の医師が入職し、眼科手術を受ける患者さんが急速に増加しています。
現在は内科中心に病院運営をしていますが、理念が引き継がれれば、将来的には、それ以外の診療科主導の病院運営でもいいと思っています。
■元々は音楽一家
父も母も音楽関連の仕事をしていましたので、私も4歳からピアノを始めました。私以外の3人のきょうだいはピアニスト、楽団員、楽器職人など、すべて、音楽関連の仕事です。
私自身も音楽は続けており、現在は、吹奏楽団で、指揮者をしています。
音楽は、感性を大事にし、他者との調和を大事にするもの。患者さんについて、細かい観察を行い、共感しながら、連携を大事にする点では、医学と共通することも多いようです。
医療法人禄寿会 小禄病院
那覇市字小禄547番地の1
☎098・857・1789(代表)
http://www.rokujukai.or.jp/