ウイルス医薬の医師主導治験「実施までのカウントダウン」
鹿児島大学遺伝子治療・再生医学分野で開発されたウイルス医薬「サバイビン反応性m‐CRA」は、がん細胞内だけでウイルスが増殖し、がん細胞のみを死滅させる治療薬。
同大学の運動機能修復学講座整形外科学では、その効果と安全性を確認する医師主導治験を早期に実施すべく学内のさまざまな部門と共同で準備を進めている。
同講座の永野聡准教授に医師主導治験や専門領域などについての話を聞いた。
■ウイルス医薬の医師主導治験について
大学院2年生の時(2000年)、小宮節郎教授が久留米大学から当学に着任されました。私は、その2カ月後に久留米大学先端癌治療研究センターに国内留学。ウイルスベクターを使った遺伝子治療の研究を始めました。
当時、師事した久留米大学先端癌治療研究センター・小戝(こさい)健一郎先生は現在、当大学遺伝子治療再生医学分野で教授を務められています。
小戝教授は、米国で遺伝子治療の黎明期より研究に取り組まれ、帰国後は日本で今回の治験の基盤ともなった革新的なウイルスベクター技術の開発に成功されました。
臨床医では取り組めない、遺伝子組み換えウイルスベクターの開発という根幹の基礎研究を学ぶことができました。
永野聡准教授が事務責任者を務める「第132回西日本整形・災害外科学会学術集会」開 催 日:11月19日(土)・20日(日)会長:小宮 節郎(鹿児島大学整形外科学教室教授)会場:かごしま県民交流センター学会ホームページ:http://wjsot132.umin.jp/
大学院を卒業後、岐阜大学などを経てハーバード大学に留学、そこでもウイルスベクターの研究を続けました。
私のハーバード大学留学中も後輩が小戝教授のもとで継続して研究に携わり、小戝教授は大型競争的研究費を次々に取得されて非臨床研究を進められ、医師主導治験の開始まであと一歩のところになりました。
これは両教室の長年の共同研究の成果であり、この技術の治験実施による実用化に大きな期待が寄せられているものと思っています。
海外留学から帰国し、大学に戻ってからは、それまでの基礎研究の経験をもとに骨軟部腫瘍を臨床の専門としました。
症例数が多いがん種では使う抗がん剤も多くの選択肢がありますが、骨軟部腫瘍では治療法が比較的少ないのが現状です。その治療法の新しいオプションとしてウイルス医薬による治療を実用化することが我々の目標です。
■研究から臨床へ
鹿児島大学整形外科には臨床医も基礎研究をしっかりやろうという土壌があり、毎年、多くの教室員が大学院に入学します。
若い整形外科医は早く手術の技術を身につけたい、一人前になりたいと思うものです。大学院に行くことは遠回りだと感じる人もいるかもしれません。しかし、研究を通じて得た知識、経験は必ず臨床においても役に立つと信じています。
私が医師になって約20年。そのうちの7、8年を基礎研究に費やしました。しかし、それをブランクだと感じたことはありません。人生のある一時期は基礎研究に没頭する時間をつくり、そこから臨床に戻ることが医師としての成長につながります。遠回りだと感じずに、ぜひ研究に打ち込んでほしいですね。
■複数の専門を持つ
小宮教授は専門を最低二つは持つべきだとおっしゃっています。私は骨軟部腫瘍のほかに形成外科的再建も専門にしています。
骨軟部腫瘍手術で骨や筋肉を合併切除した後、そこにできる大きな組織欠損を再建する必要がありますが、鹿児島大学には形成外科の講座がありません。
長崎大学や久留米大学では整形外科の骨軟部腫瘍グループが腫瘍を切除し、再建は形成外科にバトンタッチしていますが、私たちは自分の手でやらなければなりません。
私も2011年に久留米大学で創傷治癒、再建術、マイクロサージェリー(顕微鏡を使っての微細な箇所の手術)の研修を受けました。私以外のグループの人間も研修を受けており、自分たちで切除と再建ができる体制が整っています。
■ロコモ予防の重要性
日本整形外科学会の会員の一人として、ロコモティブシンドロームの認知度をもっと高めていく必要があると思っています。高齢者の寝たきりの原因に、骨粗しょう症による骨折、筋力低下などの問題が大きく関わっています。若いうちから運動習慣を身につけてもらい、健康寿命を延ばすことが私たち整形外科医の願いです。
ほかの診療科の先生、市民のみなさまにもロコモティブシンドローム予防がいかに重要かを認識していただきたい。そのための啓発活動の必要性も感じています。
鹿児島大学病院
鹿児島市桜ヶ丘8 丁目35 番1 号
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