政策医療と地域医療の両立を
松江医療センターの前身、松江衛戌病院(当時の陸軍病院)は、1908(明治41)年に開設。以来、政策医療を通じ、地域住民の健康を守る砦(とりで)の役割を果たしてきた。
鳥取大学脳神経内科教授を退官し、今年4月、院長に就任した中島健二氏に話を聞いた。
ー病院の特徴を教えてください。
診療としての大きな柱となるのが呼吸器疾患と神経疾患です。
呼吸器疾患に関しては、呼吸器内科と呼吸器外科が共同で呼吸器病センターとして対応しています。神経疾患については、神経小児科と神経内科が中心になって重症心身障害、筋ジストロフィー、神経難病、さらには認知症も含めて神経疾患に対応しています。
例えば筋ジストロフィー病棟では、療育部門のスタッフが日常生活上のさまざまな工夫、児童福祉法や障害者自立支援法関連の制度利用の支援、家族会への支援をしています。
また、患者さんの生きがい創出のために七宝焼(しっぽうやき)、ソーイング、編み物、パソコン、スポーツ(車いすサッカー)、写真、文化教室、ビーズアクセサリー、書道など、各種趣味活動を支援しています。
当院は主として慢性期の医療を担っていますので、患者さんとしっかりと向き合う医療ができることも特徴のひとつではないでしょうか。
今後は地域の医療ニーズにこたえるために高齢者医療や生活習慣病の予防などについても、さらに要望を取り入れながらやっていきたいと思っています。
ー昨年、新病院を建設されました
明るく清潔なイメージの病院に生まれ変わりました。一般の方は病院に対して「暗い、冷たい、怖い」などのネガティブなイメージを持ちがちです。しかし、新病院はそんなイメージを払しょくする建物になったと思います。いい意味で病院らしくない病院になったのではないでしょうか。
明るいイメージ作りとともに動線も工夫しています。効率の良い移動が可能となり、各部門が行き来しやすくなりました。患者さんや地域住民だけでなく職員たちからも好評です。
ー医師や職員の確保について。
山陰地方における神経内科の歴史は古く、鳥取大学は日本で初めて臨床の神経内科の教室を開設しました。よって神経内科の専門医は他の地域に比べると充足しているほうですが、それでも実情に追いつかず、まだまだ不足しているのが実態です。また、神経内科以外の科の医師不足も深刻な状況です。
来年スタート予定の新専門医制度では医師の偏在がますます助長されるおそれがあり、とても心配しています。新臨床研修制度導入は医師の偏在を招きましたが、新専門医制度ではこのようなことがないようにしてほしいと思いますし、同制度によって数多くの優秀な医師が育ってくれることを願っています。
当院は松江市の中心部にあり、JR松江駅からも近く、路線バスも通っていますので、通勤や通院に便利です。セクション間の風通しが良く、職場の雰囲気が明るく、楽しく仕事ができる環境だと思います。私たちが行っている医療に少しでも興味がある人は、ぜひ当院にきていただきたいですね。
ー神経内科が専門です。この分野の魅力とは。
私が医学部を卒業したころは、まだまだ神経疾患の治療法が確立されておらず、これから発展することが期待されている領域でした。
私は鳥取大学脳神経内科の2代目の高橋先生が教授に就任した年に入局し、3代目の教授を継ぎました。当時に比べると神経疾患の治療法、薬剤は飛躍的に進歩しています。
そうは言ってもまだまだわからない部分も多いので、やりがいがある領域だと言えるのではないでしょうか。
ー医師にとって必要なことは何でしょう。
医師は患者さんと向き合って、周囲の医療従事者と連携していかなければなりません。患者さんが必要としていること、求めていることをくみ取り、患者さんから教えてもらい、それを還元する姿勢が大切です。
患者さん自身にしかわからない微細な体調の変化があります。「ちょっとおかしい」と言われて検査をしても特に変化はないが、しばらくすると明らかな症状が現れるといったこともあります。そんなことは日常茶飯事です。見落としがちな、ささいな変化こそが、やがて表れるであろう大きな症状の兆候のことも少なくありません。
医師にとって患者さんから学ぶ姿勢を持つことは重要です。私も多くのことを患者さんから学びました。若い医師にも「患者さんから学ぶ」、この姿勢を常に意識してほしいですね。
独立行政法人国立病院機構
松江医療センター
島根県松江市上乃木5 丁目8番地31
☎0852・21・6131( 代表)
http://www2.khsc.or.jp/