津波避難学命が助かる行動の原則と地域ですすめる防災対策清水宣明[著]
東日本大震災から1年後に石巻を訪れた際、住民が津波の難を逃れるために目指した高台に登った。そこから撮影された映像には、黒い濁流の迫る様子と、無残にも飲み込まれる住民の姿が映っている。津「波」というよりも、黒い怪物が迫ってきたように見えて戦慄(せんりつ)を覚えた。
本紙東海版では、三重県立総合医療センターの高瀬幸次郎院長が南海トラフ巨大地震への備えについて語っている。太平洋沿いに長い海岸線を有する三重県として、「来るかもしれない危機(津波)」というよりは、立ち向かうことが前提の切迫した危機としての実感が言葉の端々から感じられた。
主に津波によるものだが、国と自治体はすでに南海トラフ巨大地震についての被害状況をある程度詳細に想定している。もっとも、先月、熊本と大分で頻発した一連の地震では、史上初めて震度7が連続して観測されるなどの「想定外」が続いた。今後は、「想定外を想定」することと、本書のような住民主体の具体的避難ノウハウの研究が必要になるだろう。
著者の清水宣明・愛知県立大学看護学部教授は津波被害が想定される伊勢・志摩地域で、住民と共同で被害対策を考えてきた。その経験の蓄積から、清水教授は精神論的スローガンで被害は防げないと説き、科学的に避難行動を分析することで解明した「避難の原則」を提示する。
災害弱者の視点にも配慮しながら示された、「地面の上で津波に遭遇してはならない」「避難の際は高さを優先」などの説得力ある原則は、パニックに陥りがちな災害時の行動指針として、例えば学校教育の場などで広く周知されるべきだ。 (大山=本紙副編集長)
問い合わせ=すぴか書房〈埼玉県和光市〉☎048(464)8364