目の前の人をハッピーに
■所属学会 日本小児科学会専門医、日本小児科学会(代議員) 日本未熟児新生児学会(同評議員) 日本SIDS 学会(評議員) 新生児呼吸療法・モニタリングフォーラム(幹事) 新生児医療連絡会(幹事)、(同東海地区代表)
岐阜県出身。小さいころ父親に「医者になれば絶対に人の役に立つ」と言われて医師に。「2、3歳くらいの子どもが無条件にかわいくて小児科医になりました。その子どもが元気になって親のもとに帰っていく。小児科医の魅力はそこだと思います」。
■病院運営に携わって何が変わりましたか
昨年4月に院長を拝命してからも、小児科医の仕事もやっていましたが、院長職のウエートが増えたため、小児科医の仕事は減らしたほうがいいかなというような状況です。
職員に一番大切なのは、やはり当センターの理念「患者さんと職員の笑顔がみられる病院」です。
患者さんだけでなく職員にもやさしい病院でなければ、モチベーションは上がりません。幹部が会議だけで決めるのではなく、現場の意見や要望をくみ上げて検討することが大事です。
職場に活気があるかどうかは空気でわかります。幸いにも当センターに来られる患者さんが増えてきて、成人の病棟はベッドコントロールが大変なくらいにあわただしい状況で、2週間に1度、隔週で全病棟を見て回るのですが、みんな「忙しいけどがんばっています」とニコニコしているんです。笑顔で奮闘している姿を見た時に、いい病院なんだなと思います。詰め所の空気、廊下ですれ違う時のスタッフの空気。そういった空気は大事だと思っています。
当センターの前身は城北病院と城西病院で、250〜300床の病院をひとつにしてこの場所に新築移転しました。
新規オープンの内覧会に、近隣住民の方が7千人以上来られ、長い行列ができて入れない状態になって、土曜日だけの予定を、急きょ翌日にも開催したんです。それだけでもいかに地元に注目されていたかがわかります。
なおかつ重症心身障害児者施設ティンクル名古屋もそばに完成し、すぐ横にウェルネスガーデンや志賀公園もあることで、そこで遊ぶ子どもたちや保護者、散歩したりベンチに座ったりしているお年寄りがこの建物を見て、自分たちが病気になったらここで診てもらえるんだという安心感があるようです。
これらの点でも北区と西区の公立病院としての使命は果たせているのではと思います。
■陽子線治療センターの状況は
東海3県(愛知、三重、岐阜)ではここだけで、オープンして4年目になりました。従来の放射線治療に比べて副作用が少なく、日帰りで治療できるなど、QOLの維持に優れた治療として注目されています。がんといえば「闘う」とか「頑張る」などのような強い心構えが求められる病気ですが、陽子線は体に負担が少ない治療法ですから、これからがん治療のオプションのひとつとなるでしょう。ただし胃や腸といった動く臓器は難しく、保険診療の対象でないために先進医療の枠内として288万円余りかかることが難点です。今年の4月から、小児の固形がんに保険が適用されます。今後は臨床データが増えることでほかのがんにも保険適用が広がっていくでしょうね。
■医療の将来について
成人でいうなら2025年問題です。高齢者のがん、緩和ケア、そして在宅医療について語られはじめているところです。当院としては地元の医師会と連絡しあいながら、地域のクリニックとの連携を強めていくことになります。
小児に関して言うと、名古屋市はワクチンに補助金をたくさん出しましたので感染症は減っています。一方周産期医療でハンディを負ってしまった方々の問題があります。
その方たちは家で暮らしていくほかに、病院や施設、あるいは在宅で対応できる環境がこれからもっと必要になるでしょう。保護者に冠婚葬祭などで家を留守にする事情が生じた時、今の保険診療ではお子さんをショートステイで病院が預かることはできません。名古屋市の場合はティンクル名古屋にショートステイの病床が10床ありますから、そこを利用する方法があります。たぶん日本全体に、高齢者も小児も在宅医療が増えてくるでしょう。少子化で小児科のベッドが空いた分、国のシステムを見直すなどして有効活用ができないものかと思います。
■研修医に助言があれば
どんな仕事も同じですが、目の前の人がハッピーになることを常に考えてほしいと、研修医だけでなく全職員に言うんです。看護師にも検査技師にも、採血する人にも。
患者さんが病院に来た時よりも帰る時のほうがハッピーな気分になるためにどうすればいいかということです。たとえ病気が見つかっても、「早期に発見できましたから治療できますよ」ときちんと言えば、このお医者さんを信頼しようという気持ちになり、また病院に来てくれます。
病気というものは診察回数が増えるほど診断がつけやすいんです。医者が嫌われたら患者さんが来てくれなくなり、結果として大きな病気になるかもしれません。
患者さんがハッピーな気持ちになってまた来てくれることで安全な医療を提供でき、それが患者さんと自分を守ることにつながる。小児科でいうと、お母さんの育児を褒めるだけでもいい。患者さんをハッピーな気持ちにさせなさいというのが私のポリシーです。