日本嚥下医学会、理事長に就任
―今年2月、日本嚥下医学会理事長に就任されました。嚥下障害とは。
嚥下(えんげ)とは、ものを食べたり飲んだりすることです。嚥下障害は、食べたものを咀嚼(そしゃく)や食道を経て胃に送る過程の障害を指しますが、嚥下は人間にとって呼吸と同じくらい重要な行為です。それがうまくいかなくなれば、とくに高齢者のQOL低下や肺炎を誘発するなどの問題を生じることになります。
また、人間にとって「食べる、飲む」といった行為は、ただ栄養を摂取するという以上の意味がありますよね。食べ歩きの好きな方がたくさんいらっしゃいますが、飲食行為は生きる喜びやモチベーションをもたらす行為でもあります。
―嚥下障害によってどのような問題が。
一番大きな問題は誤嚥(ごえん)で、食べたものが気管に入ってしまったり、そのことによって気管や肺の炎症を引き起こして肺炎になったりすることです。
嚥下障害による肺炎が増えているのは高齢者ですが、対処法としては、どの程度の嚥下障害なのかを見極めて、段階を経て対処する必要があります。軽い嚥下障害の場合は食べる際の工夫でも対応が可能ですので、たとえばむせにくい形状の食べ物にしたり、量を工夫して少量ずつ食べるようにします。あとは、「食べることを意識する」ことも効果があります。Think Swallow(嚥下の意識化)と呼んでいますが、食べる行為自体を意識すると誤嚥が少なくなることがわかっています。
むせやすいなどの初期段階に対しては、肺炎を起こしにくくする効果のある薬物もありますが、保険適用されるような薬ではないので誰でも使えるというわけではありません。
一方、嚥下障害がひどい場合、とくに脳梗塞を起こした後の嚥下障害などについては、専門的で適切なリハビリが必要になります。
―どのような研究に取り組んでいますか。
嚥下障害の重症度をどのように評価・判断するかということについて研究を進めています。嚥下の内視鏡検査や造影検査所見をどのように評価するのか。医師だけではなく、看護師やリハビリを担当する言語聴覚士、理学療法士などと情報を共有するための基準を作って提唱しています。
さらに、嚥下障害がひどい場合はリハビリだけでは治らなくなります。誤嚥やそれにともなう肺炎のリスクが高い場合、あるいは脳梗塞や神経性疾患の場合は、手術で飲み込みを改善したり肺炎を起こしにくくすることにも取り組んでいます。
飲み込みの障害があることで、他のさまざまな障害が見つかる場合もあります。神経難病であったり、頸椎が前に突出してのどを圧迫するような病気もありますが、時にはのどのがんが見つかることもあります。このように、高齢者で徐々に進行してくる嚥下障害には他の病気が隠れている可能性があるので注意が必要です。
―新理事長として、学会の運営方針は。
嚥下は非常にすそ野が広い分野です。内科や脳神経外科にも関係しますし、外科の手術後の嚥下障害など、関連する分野が広いので、関わってくる医療スタッフがたくさん必要になります。直接リハビリに携わるのは看高知大学医学部耳鼻護師や言語聴覚士などですが、管理栄養士や薬剤師などの多くのスタッフの協力が必要になりますので、診療科や職種の垣根を低くして嚥下障害の治療について協働作業で進める体制をつくっていきたいと思います。
脳梗塞の後に食べることができなくなってそのまま胃ろうに移行し、チューブで栄養摂取をしている患者さんも多くいらっしゃいます。食べることができないとあきらめてしまった患者さんにリハビリや手術を施すことで食べられるようになることもありますので、私たちが持つ情報をどうやって患者さんに届けるかも考えていかなければならないでしょう。
ぜひ、食べることを最後まであきらめないで、医療機関に相談していただきたいと思います。
高知大学医学部 耳鼻咽喉科 http://www.kochi-ms.ac.jp/~fm_otrhn/
日本嚥下医学会 http://www.ssdj.med.kyushuu.ac.jp/
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会 http://www.jibika.or.jp/