2020 年のガイドライン改訂に向けて 脳低温療法のいま
■脳低温療法
昨年7月10日と11日の2日間、香川県高松市のアルファあなぶきホールで開かれた第18回日本脳低温療法学会で会長を務め、多方面から応援していただいて、盛況のうちに幕を閉じることができました。海外からはNiklasNielsen 先生とKees H.Polderman 先生が講師に来てくださいました。
今回が初来日のNiklasNielsen 先生は、心停止後症候群の転帰が33度の脳低体温療法と36度の発熱抑制療法で有意差がないということを2013年に発表し、議論を巻き起こした方です。
昨年10月に改定された心肺蘇生法ガイドラインでは、摂氏33度から36度の間で体を冷やせばよいということになりました。なぜ冷やす温度に幅があるのか。36度に比べて33度の方が、より良い効果があるという明確なエビデンスがないからです。
先日、お笑いタレントの前田健さんが急死されました。詳細は不明ですが、報道によると一度蘇生した後に亡くなったということなので、心肺蘇生後に体を冷やすなどの処置を行っていると思います。
個人的には、ダメージがひどい場合は33度まで冷やした方が良いのではないかと思います。頭のダメージの状態を評価するのは難しく、例えばある人の心臓が停止、その後心拍が再開するが意識がない場合、脳のダメージの状態はAさん、Bさん、Cさんで各人各様です。同じように昏睡して、その後心拍が戻った、しかし意識がない。そういう人が3人いるとすると、ある人はダメージが軽くて、放っておいても回復するし、ある人はダメージが大きく、何をしても戻らない。さらにその中間の状態もあって、その場合は体を冷やした方がいいのだろうと思います。
しかし、現在のところ脳のダメージが軽いか重いか、その中間かを調べる方法がありません。現在、脳低温療法が効くか効かないかでもめていますが、まったく同じ状態ではない以上、答えが出せません。
次の心肺蘇生法ガイドライン改訂は東京オリンピックが開催される2020年です。そのころまでに少しでも明確にしなければなりません。
■熊本地震での活動
先日の熊本地震では私もDMATで現地に赴きました。各地のDMAT隊でエリアを分担したので、効率の良い医療が展開できました。
規模は違いますが東北震災の時は日本全国から医療者が駆けつけ、多少の混乱もありました。あの時の教訓が生かされたのではないでしょうか。
急性期は過ぎたと言えるので、これから必要なのは慢性期を担う救護班でしょう。今後はJMATによる継続的なサポートが求められます。
脳低温療法について
病気やけがにより傷害された脳を回復する治療は従来難しいとされており,障害のために社会復帰が困難である患者さんやそのご家族にとって大きな問題となっています。
近年になり,脳傷害に対し急性期に体を冷やすことによって脳を保護し蘇生できるのではないかという試みが世界的になされてきました。この様に傷害後の脳保護・蘇生を目指して体を冷やす治療法は脳低温療法と呼ばれております。日本においても1990 年代の初めから全国的に脳低温療法が施行されるようになりました。
現在のところ対象となっている患者さんは,心肺停止蘇生後,脳梗塞,脳出血(クモ膜下出血),頭部外傷(交通事故など),新生児仮死,等の脳疾患です。受傷早期(多くは6 時間以内)に開始しないと効果がないといわれています。
脳低温療法はただ体を冷やすだけではなく脳障害の病態にあわせて様々な集中的な治療を施す必要があります。その適応や具体的な集中管理法を全国の大学や多くの病院で研究が行われている最中です。それらの研究機関の医師や研究者が,一年に一度行う研究会が脳低温療法研究会です。様々な疾患における脳蘇生の可能性の検討や,また動物の冬眠を通して体温低下の意義を検討するなど,多角的な視点から研究成果の発表が行われ、脳低温療法もどんどん進歩しています。(日本脳低温療法研究会ホームページより抜粋)
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