今年で開院60周年 伝統を引き継ぎ、地域と共に歩む
●高齢化が進む地域で
当院がある岡山市南区は、ほかの地区と比べて高齢化が進んでいます。高度成長期に建設された新興住宅地の住民たちが一斉に高齢化しているのが、要因のひとつです。
私たち佐藤病院は、この地域での急性期後の医療を担っており、岡山労災病院、岡山赤十字病院、岡山旭東病院などの急性期病院から患者さんを受け入れています。
●柔軟な対応が必要
厚生労働省が打ち出す医療政策に柔軟に対応する必要があります。資金や人員が潤沢な大規模病院なら、ひとつの目標を定め、それに突き進む方法も可能かもしれません。しかし、当院ぐらいの規模( 93床)だと状況の変化に対応せざるを得ません。病院を継続させるには、どうすべきかを常に考えています。
現在、常勤医が10人。主に岡山大学からの派遣です。しかし、来年4月にスタート予定の新専門医制度では、症例数や指導医数が多い大規模病院に医師が集中してしまう可能性があります。われわれとしては頭が痛い問題ですね。
●回復期、慢性期を担う病院に
厚労省は2014年の病床機能報告制度において一般病床と療養病床を「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4機能に区分しました。地域の医療ニーズを踏まえて、私たちは回復期、慢性期を担う病院を目指すことにしました。
地域包括ケア病床( 26床)を今後も増床し、地域包括ケア病床と医療療養病床の2本柱で運営していく予定です。
●世界初の術式を報告
私は岡山大学第二外科の出身です。同科の2代目教授、津田誠次先生は1925年から33年間、教授を務められました。
私が第二外科に入局した理由は津田教授が培ってきた医局の風土に強い共感を覚えたからです。
入局した時は、津田教授はすでに退官されていましたが、3代目教授には東京帝国大学の榊原仟先生と並び称される心臓外科の世界的権威である砂田輝武先生が就かれていました。
砂田先生が私に指示した研究テーマは「直腸がん根治手術における膀胱ならびに性機能障害の防止」でした。当時の直腸がんの手術では周辺の神経までも切除していたので、手術後、尿の排泄と性機能に障害が出ていました。これを防止する研究をしなさいということです。
その研究をやるには大変な時間と労力を要します。私にはそんなに息の長い研究はとても務まらないと思い、当初は断っていましたが、砂田先生の強い要望を断りきれずに研究を始めました。
研究の結果、直腸がん後の膀胱と性機能障害を防止し、機能温存を図る手術様式を日本で初めて報告することができました。海外ではこんなことをやりませんから、とりもなおさず世界で初めての報告となりました。
現在ではこの術式は一般化しています。砂田先生からは「無理かもしれないと思っていたが、よくやったな」と褒められたものです。
●患者さんに敬意を
病院に設置している患者さんからの意見箱には、感謝の声もあれば、まれに耳の痛い意見もあります。
医療従事者たるもの、患者さんに丁寧な対応をしなければなりません。上から目線でなく患者さんの話をよく聞いたうえで対応することが基本です。患者さんに敬意を払えない人は、ほかの職業を選択するべきではないでしょうか。
かつて研修医のひとりが「外科医が、患者の既往歴を聞く必要はないでしょう。手術さえ成功すれば良いのではないですか」と言いました。私が彼に「患者さんのことを十分に把握しておかないとだめだ」と注意すると、呆気にとられていましたね。しかし、その5、6年後、彼は「あの時、先生に言われたことが、ようやく分かってきました」と言ってきました。医師は人間を相手にする仕事です。人間を理解することが、どの科であっても求められるのです。
医師はサービス業の側面があります。医師と患者の心が響きあう関係が理想の姿なのです。医療訴訟などに発展するかどうかも、そのような関係が築けているかどうかだと思うのです。
当院はこの地域で開業して60年。子どものころから通ってきてくれている患者さんも数多くいます。地域密着型病院の伝統を引き継いで、地域のみなさんから信頼される病院であり続けたいと考えています。
佐藤病院岡山市南区築港栄町2‐13
☎086・263・6622 http://www.sato-hp.com