街をあげて子どもたちを育てる
医師が内視鏡手術について説明している部屋の外では、造園業者によるコケ玉づくり体験や、金融機関の1億円の重さ体験、広告会社の高所作業体験に、消防署による消火体験...。
3回目となった久留米市での職業体験型イベント「ドクターブンブン」。多くの家族連れと子どもたちの笑顔を会場で、うれしそうに、見つめる男性がいた。
発案者で、実行委員会委員長を務める音成龍司さん( 61)。市内で「音成神経内科・内科クリニック」を開業する医師だ。
企画のきっかけは、未来への危機感だった。いじめ、引きこもり、ニートなどの社会問題。将来の街を背負う若い世代の現状に不安を感じていた。進む高齢化に、「この先は人口減。病院や企業など、ここで働く人がいなくなってしまうのではないか」との懸念もあった。
そこで思いついたのが、職業体験を主とした地元に愛着と誇りを持てるようなイベントの開催。「早い時期に目標ができれば、前に向かって進める。目標に向かって努力してきた『めげない子』なら、仕事を始めた後の困難も乗り越えられるはず」と考えた。
構想1年、仲間も増え、2013年、初めてのドクターブンブンが実現。医療機関、企業、大学、行政も協力し、その規模は年々拡大、「子どものための街のお祭り」となりつつある。
今年は、スポーツ関連の仕事も体験できるようにする予定だ。「勉強が嫌いでスポーツが好きという子もいる。いろいろな分野の仕事を目指してほしいから」
長崎県佐世保市で育ち、医師で病院を経営していた父親の姿を見て、医師を志した。佐賀医科大学(現佐賀大学医学部)内科で神経内科を専門に。近年、サスペンスドラマのタイトルでも使われるなど注目を集めている「脳指紋」の研究を始め、1991年には、過去に見聞きした事柄に反応して出る特殊な脳波「脳指紋=P300」に関する論文を、国際法医学雑誌に、世界で初めて報告した。
45歳で開業。診療や研究のほか、社会活動も続け、今は、認知症サポーターの養成支援にも関わる。還暦を過ぎても多忙な日々。「ネルソン・マンデラ(南アフリカ元大統領)は40代で投獄されて、70代で大統領。そう思うと、まだまだ、がんばれるかな」というと、豪快に笑った。