感性を育み、歴史に学ぶ
6学部体制で多様性に富む人材を育成
国立大学は、かつて、どの大学も同じ方向を志向し、「偏差値で縦に並んだ金太郎飴(あめ)」状態の時代がありました。
しかし、少子化が進み、そのままでは、学生数を確保できない大学が出るであろうことは、早い時期から分かっていました。
そこで国立大学改革が叫ばれ、佐賀では佐賀大学と佐賀医科大学が統合し、さらに法人化を迎えました。大学改革の中で、文部科学省が国立大学に選択を求めた枠組みは、「地域」「専門」「世界」の3つの特色です。同じ顔をしていたのでは生き残れない。特色、強みを発揮することで、学生に選ばれる大学を目指せということだろうと思います。
3つの枠組みの中で、佐賀大学は「地域」すなわち「COC=center ofcommunity」を選択しました。とはいえ、もともと佐賀大学はCOCなのです。1 9 4 9(昭和24)年に旧制高校と師範学校が一緒になって設立されたころから、佐賀のための佐賀大学。地域の地(知)の拠点だったわけですし、理念として「地域とともに発展し続ける大学」を、ずっと掲げています。
この2016年4月、新たに「芸術地域デザイン学部」を発足させました。これまでは5学部(文化教育、経済、医、理工、農)体制でしたが、文化教育学部を再編し、佐賀県立有田窯業大学校とも統合して、6学部(芸術地域デザイン、教育、経済、医、理工、農)体制となったのです。
佐賀大学には通称〝特美〞と呼ばれた特設の美術課程が1953(昭和28)年からありました。これは、九州だけでなく、岡山以西でも唯一の美術教員養成課程です。この〝特美〞には、美術を学びたいという志と才能を持った学生が、九州一円から集まってきていました。
私自身、佐賀市の出身で、佐賀大学附属小・中学校を出ていますので美術の先生に〝特美〞自慢をよく聞かされていました。したがって、佐賀大学の特色のひとつは〝特美〞だと考えています。
教員を養成しない新課程を廃止ないしは改組するよう国から要請される中で、有田の県立窯業大学校を大学に組み入れてほしいという佐賀県からの要望は、真に時宜を得たものでした。これが美術・工芸課程を、陶芸を含めた芸術系学部に昇華、改組しようということにつながったのです。
さらに、本学には、国立の総合大学で唯一、美術館があります。「芸術地域デザイン学部」は、大学の大きな強みになるだろうと考えています。
「デザイン」という言葉はさまざまな意味を内包しています。本学では芸術家の育成だけでなく、街のデザインや企業広報、企画など、これからの時代が求める広い人材の育成を進めていきたいと考えています。
これまで、文化教育学部のデジタルアート担当教員が、デジタルアートに興味を持つ他学部の学生にデジタルコンテンツ作成技術を教える、インターフェース教育をしてきました。その技術を持つ人材は、マスコミなど幅広い分野で重宝がられています。
新たな芸術地域デザイン学部の講義も、それ以外の学部生も学べるシステムにしたいと思います。
人間の才能はひとつではありません。また、これからの時代は、ひとつのことしかできないようでは生き抜いていけないでしょう。
芸術的雰囲気に触れるだけでも、知らず知らずに芸術的素養が育まれます。芸術系学部があることで、多様性のある人材を育成できるということをこれまでも実感してきましたし、今後も、その効果を最大限に生かしていきたいと思っています。
佐賀の歴史に誇りを
佐賀は、明治維新期、非常に活躍した県です。いち早く、全国に先駆けてグローバル化を推し進め、反射炉を築造し、鉄製大砲や蒸気機関、蒸気船などを日本で最初に製造しました。
西洋医学の発信も佐賀藩からでした。大隈重信、副島種臣、江藤新平ら「佐賀八賢人」と呼ばれる人々以外にも、伊東玄朴や相良治安が近代医学の礎を築きました。
しかし、それらは、残念ながら、あまり知られていません。このような佐賀の歴史を学生にしっかり伝えたいと思います。そして、その佐賀で自分は勉強したのだという、誇りを持ってほしい。「一度できたことができないということはない」と若い人を鼓舞し、世界を舞台に活躍できる人材を育てていきたいと思っています。
附属病院の医療改革
私は本学医学部附属病院の病院長を6年間務めました。高度医療への対応は当然ですが、そのほか、テレビの無料化、院内画廊など、患者さんに楽しんでもらうためのさまざまなことにも、取り組んできました。
やり残した課題は「給食をおいしくすること」。そのために、厨房設備は全部高度化しました。1年以内には、どこにも負けない食事を出そうと思っています。佐賀は農業県ですから、おいしい食材がたくさんあります。それを有効利用したい。佐賀牛のA5ランクはともかく地産地消を目指したい、そう考えて、鋭意、改革中です。
2014年には、「佐賀mircaカード」を導入しました。診療記録の一部を、アプリを使って閲覧できる仕組みで、現在約300枚発行しています。患者さんの同意の下、救急搬送時の個人情報、持病確認などにも役立てられています。
さらに、画像情報を含めて本人の同意があれば、どこからでも診療情報が利用できるまでに改善し、医療費の節減と疾病、健康の自己管理の推進を目指します。患者さんご自身にもご家族にとっても、安心なのではないでしょうか。