自分のために正しい理解を | 熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神医学分野 橋本 衛 准教授

  • はてなブックマークに追加
  • Google Bookmarks に追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • del.icio.us に登録
  • ライブドアクリップに追加
  • RSS
  • この記事についてTwitterでつぶやく

認知症は怖がらなくていい

はしもと まもる(兵庫県出身) 1991 大阪大学医学部を卒業し同附属病院神経科精神科で研修 1992~1996 同大学院医学研究科博士課程 1993 千葉大学医学部神経内科に国内留学 1996 兵庫県立高齢者脳機能研究センター臨床研究員2004 医療法人北斗会さわ病院医員 2007 熊本大学医学部附属病院神経精神科助教 2011 同講師 2015~同准教授 ■日本高次脳機能障害学会評議員 日本神経心理学会評議員 日本老年精神医学会評議員 日本認知症学会評議員 日本神経精神医学会評議員 日本精神神経学会 日本神経学会など

k11-1-1.jpg

 医療者の中にも認知症について3つの見方がある。
■認知症は病気ではなく別の生き方が始まったと見るべき。
■地域で共に生きて行くためのサポートのほうが重要。
■本人と周辺にさまざまな苦しみが生じるから治療に全力をあげる。

 精神医学の中で特に認知症を専門に診ている、熊本大学の橋本衛准教授に意見を求めた。

今はどれもあっていい

 どの見方も誤りではないし、一方でどれも完全ではないと思います。なぜなら、もし認知症を引き起こす病気が治るならば、治療して治すという方法を選択しない人はいないからです。ということは、「別の生き方を始める」という考えも、根本的な治療がない状況をできるだけポジティブに表現しているに過ぎません。とはいえ治る希望がない状況の中で、ご本人にとってより良い余生を送ってもらうという視点に立てば、とても重要な見方ではあります。そして医療がそこに貢献できるならば、医療者であれば誰もがそうしたいと思うでしょう。一方で認知症が完全に治るものならば、みんなそちらを選びますので、完全に治すための医学の発展も当然追い求めていく必要もあるでしょうし、そうすべきです。だから、今はどの考え方もありだと思います。

受け入れることの大切さ

 若年性アルツハイマー病の方は、お体は元気ですから余生は長く、15年くらいは十分生きられます。しかし、これまでとはまったく違う生活になりますので、より良い生活を送っていただくためには、まずは自分が認知症であることを受け入れる必要があります。受け入れて初めて次のステップに進めるのです。ご本人に病気を受け入れてもらうためには、病気の情報を医療者がきちんと伝えなければなりません。適切に診断し、予想される経過や予後を説明し、何か困った時には支援することを保障することで、ようやくご本人は自分の状態を受け入れる準備ができるのです。ですから医療抜きには、別の生き方もできないわけです。

恐怖が情報を氾濫させる

 日常生活で氾濫する認知症予防に関する情報の中には、たしかに効果的なものもありますが、それで完全に予防できるかといえば決してそうではなく、いくら努力をしても発症する人はあります。情報が氾濫する根っこにあるのは、認知症に対する負のイメージ、恐怖です。認知症になれば「自分が何もわからなくなってしまうのではないか」「徘徊(はいかい)や妄想で家族に迷惑をかけるのではないか」と考え、そのような認知症になりたくないとの思いからさまざまな情報にすがりつきがちです。でも私が普段診ている患者さんたちの中には、周辺症状といわれる精神症状や行動障害を示す人はむしろ少数で、多くの方は多少生活の中で不便なことが生じても適切な介護を受けながらその人らしく生活されています。このような状況を一人ひとりが理解する必要があります。

怖がらずに正しく理解を

 皆が認知症を正しく理解していれば、いずれ認知症になったとしても、激しい周辺症状は起こらないのではないかと思っています。「自分はどうなってしまうのだろう」と不安がかき立てられることが周辺症状につながると考えるべきです。ですから、認知症サポーターを養成して多くの人が認知症を理解するということは、認知症の方のケアに役立つだけでなく、将来その人たちが認知症になった時にこそ役に立つのだと思います。まったく知らないものに襲われるよりも、知っているものに襲われる方が不安は少なくて済みます。

治療の開発はどこまで

 私が認知症に携わりはじめた20年くらい前からずっと、「もう数年経てばアルツハイマー病の特効薬が開発されるだろう」といわれ続けてきましたが、今だに実現されていません。実際、アルツハイマー病の主たる原因とされているアミロイド蛋白をワクチンなどで取り除くことができるようになりましたが、アミロイドが取り除かれているにもかかわらず認知症が悪化してしまった研究結果には非常に落胆しました。それでも、神経障害に直接結びついているとされるタウ蛋白のリン酸化の予防も含めて、アルツハイマー病の変性過程に対してさまざまな治療的アプローチが試みられています。またアミロイドの除去についても、除去する時期が遅過ぎたのではないか、もっと前、すなわちまだ症状も出ていない時期から治療を始めれば発症を予防できるのではないかという考えに基づいて、米国を中心に研究が進められています。しかしながらこれらの結果が明らかになり、臨床で用いられるようになるのは10年、20年先になりそうです。

リザーブ=予備能

 脳を活発に使っている人は認知症になりにくいという話があります。それを私たちはリザーブ、予備能と呼んでいます。

 例をあげれば、脳機能が70を切ると認知症が生じると仮定した場合、もともと100の機能を持っている人であれば30の低下で発症しますが、120あればたとえ30衰えてもまだ90ありますので症状は出ません。このように脳を活発に使って知的機能を高めておくことが保護的に働くと考えられています。ただしあくまで認知症になるまでの期間を引き伸ばしているに過ぎませんのでいずれは発症します。ただ発症が引き伸ばされている期間に別の理由で死亡すれば、死ぬまで認知症にはならなかったことにはなります。

健康管理を心がけて

 認知症の方の家族から、「食事で気をつけることは」とよく尋ねられます。その時に私は、「何でも好きなものを食べてください」と答えています。たしかにバランスの良い食事は大切ですが、認知症の方で一番の問題となるのは摂取カロリーが減りやせてしまうことです。脳と身体は一体ですので、健康管理はとても重要です。予防という観点からは、中年の時期、40代から60代に生活習慣病を治療し、しっかり健康管理をすることが先々の認知症の予防につながることが、さまざまな疫学研究でも指摘されています。


九州医事新報社ではライター(編集職)を募集しています

九州初の地下鉄駅直結タワー|Brillia Tower西新 来場予約受付中

九州医事新報社ブログ

読者アンケートにご協力ください

バングラデシュに看護学校を建てるプロジェクト

人体にも環境にも優しい天然素材で作られた枕で快適な眠りを。100%天然素材のラテックス枕NEMCA

暮らし継がれる家|三井ホーム

一般社団法人メディワーククリエイト

日本赤十字社

全国骨髄バンク推進連絡協議会

今月の1冊

編集担当者が毎月オススメの書籍を紹介していくコーナーです。

【今月の1冊, 今月の一冊】
イメージ:今月の1冊 - 88. AI vs. 教科書が読めない 子どもたち

Twitter


ページ上部へ戻る