医療の入口を担うのが「救急」です
■充実の救命救急センター
当院の救命救急センターは1994年11月に開設しました。
当センターの開設前、高知県は全国で唯一、救命救急センターを持っていない県だという、ありがたくない肩書きを持っていました。当時は私立病院が救急を一手に引き受けている状況だったのです。
開設当初は4人体制でしたが、徐々に医師が増えてきて、現在では医師12人で、うち救急専門医10人というのは全国の市中病院の救命救急センター中9位、赤十字病院だけに限ると全国1位と日本屈指の救命救急センターへと変貌をとげました。
女性医師が5人いて、そのうち2人は子どもさんがいます。お産もできて子育ても可能な救急部なんです。人数が多いからこそ実現できるのだと思います。産休、育休も取得できるので女性にとって働きやすい環境ではないでしょうか。
■地域の患者は地域で診る
東京など大都市では、都内、県内の病院から救急車が受け入れを拒否され、県外まで患者さんを搬送したという事例をよく耳にします。
しかし、高知県では「私たちがこの患者さんを救わなくて誰が救う」という気概を持ち、高知赤十字病院と高知医療センター、近森病院という3つの救命救急センターが密な連携をとり、県内で医療が完結できるように努力しています。
近年、救急隊員の疾患の知識が増してきています。例えば頭痛を訴える患者さんへの対応も、以前ならば近くの病院に搬送していましたが、今では、くも膜下出血を疑って、われわれのような3次医療機関に搬送してきます。
最悪のケースを想定すると、より高次病院に搬送するのは当然の対応です。患者さんが集中するので、負担が増えて大変な面もありますが、苦しんでいる患者さんを救うのが私たちの役目です。
昨年12月に県内で救急搬送された人の中で80歳以上の人の割合を調べました。消防庁の同種の調査では65歳以上を対象にしていますが、わが国の60代、70代の人たちは、とても元気です。本当の意味で高齢者と呼べるのは80歳以上の人たちではないでしょうか。
調査の結果、高知県を走っていたすべての救急車のうち、80歳以上を搬送していた割合は41%でした。高齢者は他の疾患を併発しているケースが多々あるので、必然的に高次医療機関への搬送となってしまうのです。
これから先、いかに高齢者の救急に対応していくべきかを常に考えています。患者さんが退院後により良い人生を過ごしていただくために救急医療をやるのであって、延命が目的ではありません。人生の最終段階にどのような選択をするのかを患者さんと共に考えていきたいですね。
■地域との連携が不可欠
救急医療を円滑に行うためには、2次、1次病院との連携は不可欠です。治療が終わり、症状が改善した患者さんは、速やかに地域の病院へお戻しする必要があります。
私たちが担っているのは医療の入口部分である救急です。スムーズな救急医療を行うには出口の役割を担う、在宅、介護が整備されていなければなりません。地域医療の円滑な循環を促す役割も、今後、われわれに求められてくるでしょう。
■交通インフラの整備を
郡部の病院数が人口減社会と歩調を合わせるがごとく減少しています。それらの地域の患者さんが骨折をした時、近隣に整形外科がなければ、都市部の大病院に搬送する必要があります。
今後、郡部に病院が増えていくとは考えづらく、搬送を強化していくしか解決策はありません。ドクターヘリの運用は有効ですが、日中の好天時のみ運行が可能で、夜間や荒天時は高速道路を使って救急車で搬送しなければなりません。
地方の高速道路は、1日10台ほどしか車が通らない不採算道路だと批判を浴びがちですが、そんな地域にこそ高速道路が必要なのです。
車の通行台数が少ないのは過疎化が進行している証です。過疎地に病院を建てても経営は成り立たないでしょう。高速道路の整備をすることが、地域住民に対する最低限の公共サービスではないでしょうか。
■救急医療功労者賞を受賞
昨年9月9日、厚生労働省の救急医療功労者賞を受賞しました。地域の救急医療に貢献したとの理由で、県の強い推薦があったそうです。
高知県は南海トラフ地震で甚大な災害を被ると予想されており、対策が急務です。
私たちは外傷診療に必要な知識と救急処置を、模擬診療を介して学習するトレーニングコース「JATECコース」(医師対象)と「JPTECコース」(主に救急隊員、看護師対象)を設け、県に主催していただいています。その取り組みが認められて今回の受賞につながったのだと思います。ただ、今回の受賞は、私個人というよりも病院を代表として受賞したと思っています。
救急を組織的に運営するためには行政とのスムーズな連携は必須です。病院単体で、できることではありません。