独立行政法人 国立病院機構 榊原病院 院長 村上 優

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病院改革の鍵は医療水準の向上|心身喪失者等医療観察法病棟の充実を通して挑む、病院改革

むらかみ・まさる  大阪府立豊中高等学校卒業、九州大学医学部卒業/ 1974 国立肥前療養所(現・肥前精神医療センター)研修医 1975 国立肥前療養所医員 1986 国立肥前療養所精神科医長 2002 国立肥前療養所臨床研究部長 2002 King's College London - Institute of Psychiatry―6カ月間司法研修 2004 肥前精神医療センター臨床研究部長 2005 国立病院機構花巻病院臨床研究部長併任2006 国立病院機構琉球病院院長 2014 独立行政法人国立病院機構榊原病院院長/ペシャワール会 会長

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■医療観察法病棟の専門家として

 2002年に心神喪失者等医療観察法(以下、医療観察法)が国会に上程された際、制度の参考にしたイギリス研修に行かせていただき、03年に法律が通ってからはずっとその準備をしていました。05年に法律が施行されて医療観察法病棟がスタートするのですが、それまでの経緯もあって全国の医療観察法病棟の準備を手伝ったり、前任地の琉球病院もそうですが、病棟がうまくいかない場合には再建するために赴任することが多くなりました。

 ただ、いざ赴任してみると、医療観察法病棟だけではなく病院全体の医療水準を上げる必要に迫られた。1部門だけの水準が突然上がるなんてことはありえないわけで、病院全体の医療水準向上に取り組んだ結果、琉球病院の医療水準は日本の精神科病院のなかで上位1%に入るくらいにまで向上しました。

※=パキスタンやアフガニスタンで医療活動、灌漑事業を行うNGO、ペシャワール会の現地代表。九大医学部の同窓である村上院長は、同会会長を務める。

 若い医師も十分に育ったので、じゃあ次に危機的な病院はどこだ、ということで、前院長がお辞めになってから医師が減り続け、3年間低迷していた当院に来たわけです。中村哲医師(※)じゃないが、誰も行かない、誰もしないことをする運命なのかもしれません。

■医療水準が劇的に向上

当院においては、まずは病院として失ってしまった信用や医療水準を回復させることが第一の目標でした。これに関しては、以前、私が臨床研究部長をしていた肥前精神医療センターの臨床心理士が来てくれたり、肥前でいっしょに医療観察法病棟を立ち上げた経験のある琉球病院の副看護部長が来てくれたりと、どんどん人材が集まってきました。

 優れたスタッフのおかげもあって、医療観察法に関しては1年間でほぼ全国区の医療水準にまで到達したと思います。昨年12月には北陸病院で医療観察法を担当していた村田昌彦先生に副院長として来ていただき、ある意味では全国でも注目を浴びる病院になったのではないでしょうか。

 医療観察法に該当する患者さんというのは、精神喪失等の状態で殺人や傷害、強盗、放火などの重大な他害行為を犯すような方ですので、日本の精神科ではもっともマンパワーを必要とします。通常のスーパー救急と比べても3倍近いマンパワーが投入されていますので、一番レベルの高い医療を提供しているとも言えるでしょう。

 特殊な分野ではありますが、医療観察法だけで病院がなりたつわけでもありませんので、今後は最高の医療レベルを誇る医療観察法のノウハウを一般医療に応用するのもひとつの役割です。

 現在は、抵抗性や難治性の精神疾患の治療にも力を入れています。統合失調症の場合は、クロザピン(Clozapine)という、使い方は難しいが抜群の効果がある薬を導入しています。私が来るまでは県内でほとんど使われていなかったが、この1年で30人程度の方に導入しました。

■多職種連携の成果

生物学的な治療で症状自体はある程度改善しますが、本質的な改善という意味では、本人が病気を理解して治療しようと決意したうえで、心理・社会的なアプローチがあってこそ意味があります。その心理・社会的な部分はドクターやナースだけでなく多職種チームで診る必要がある。いまでこそ多職種チームという言葉が一般的になりましたが、これを定着させたのはおそらく医療観察法なのです。医療観察法では一人の患者さんに対して、ドクター、ナース、臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士の最低5職種がついてチームで治療します。

 多職種チームの働きもあって、非常に難しい患者さんをある程度落ち着かせることが可能になり生活スキルや対人関係スキルをアップさせることで安定化させていくことは達成しつつあります。そうしているうちに、病院の評価が上がってきたのか、治療が簡単な患者さんを紹介されなくなってしまった(笑)。診断も難しいし、統合失調症だけでなく発達障害があるとか身体合併症が強い方だとか、非常に複雑なケースを診ることが増えています。

 今後の病院の方針としては、医療観察法の手厚い医療を基礎にして、難治性の患者さんを治療することを旗印にすべきではないかと考えています。いわゆるスーパー救急的にすぐに薬を出して退院させるというようなことは他院と競合するので、独自分野でやっていこうと。

 児童精神医療に関しては、あすなろ学園(三重県立小児心療センター)という自閉症の施設がありますが、ここは15歳までしか診ることができないのですね。たしかに15歳までに医療が介入してうまくいった子はいいのですが、自閉症には「17歳の壁」があって、思春期が始まって人間関係が広がると、良くなった自閉症のスキルが崩壊することもある。しかし、現状ではそういった子どもたちの行き場がない。

 それで、その子たちが当院に来るのだけれど、この子たちに対応するのはすごく労力をとられるのです。手薄な診療体制で一番困難な患者さんを診ているわけで、この分野をきちんとしないと子どもの医療ができているとはいえません。県にもはたらきかけていますが、体制を整えたうえでその子どもたちを引き受けていきたいと思っています。

 あとは、超高齢社会を迎えるにあたって当然増えるであろう認知症にどう対応するのかという問題があります。認知症の病院はたくさんあるので、そこに割って入るつもりはありませんが、地元の方で単なる認知症ではなく、妄想だったり暴力行為だったりの問題行動が出てくる方について短期入院させてみることは試みてみたいですね。

■医療の質を向上させることで病院は変わる

 病院を変えるためにやるべきことはただひとつ、医療の質を向上させることです。医療の質を上げさえすれば人は変わっていく。これまでの医療で満足せずに、精神科の医療の質ってなんだということを突き詰めて考え抜くことです。人が人を治すわけだから、たしかに薬も大事なんだけれど、やはり人なんですよね。接し方を変えるだけで患者さんが変わっていくのを見ると、「私もやろう」という人が少なからず出てくる。職員のこの変化が、ある時点まで来ると、1人、2人といった点の変化ではなく潮が満ちてくる感じで面として変化してくる。

 当院は今月、20人増員します。この方たちはさまざまな医療現場のトップ集団にいたようなスタッフで、「いっしょに仕事がしたい」と言って来てくれますので、楽しみです。病院に大きなインパクトを与えると思いますよ。

三重県津市榊原町777


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