山口県で起こっていることは四国でも山陰でも起こっている
山口大学医学部附属病院は、名実ともに県内の医療の総本山となっており、県民の信頼度は非常に高い。山口大学大学院医学系研究科/救急・総合診療医学分野教授の鶴田良介先進救急医療センター部長に、中国地方の救急医療体制と、5月20日(金)、21日(土)の両日、ANAクラウンプラザホテル宇部で開催される第32回日本救急医学会・中国四国地方会のテーマ、「地方の救急医療を見つめなおす」の意義を中心に話してもらった。
今でも時々ドクターヘリに乗っていますよ。六日市病院(島根県)のヘリポートに降りたこともあります。中国地方は鳥取県だけがドクヘリを所有していなくて、しかし、島根、岡山、広島、山口の4県にありますから、相互に乗り入れて救急医療をまかなっているところです。鳥取県の東部は豊岡病院(兵庫県)のヘリが飛ぶんです。
山口県のドクヘリ運用が2011年に始まった時、ちょうど私が責任者でした。その時、「救急車を中心としたこれまでの救急医療体制をあまり変えないようにしよう」と考えました。ヘリにはそれに見合った用途があります。地方の医療体制の崩壊を補うためにドクヘリが導入されたわけではないんです。天候が悪い日もあるし、夜は飛べませんからね。
この宇部市は、隣接している山陽小野田市と、北にある美祢市とは、1つの救急医療圏になっています。これらの医療圏からの要請もそうですが、より遠方からの要請についてもドクヘリが非常に有効なわけです。
山間部や有人離島などヘリのほうが絶対に早い場所はありますが、山口県は救急車のアクセスが良く、救急隊も1989年に始まった救急救命士制度で、いい処置ができるようになっていますからね。昨年からは処置も拡大されました。
救急救命士がどんどん活躍している状態は「病院前(びょういんぜん)」と呼ばれ、われわれ医師や看護師が現場に出て行く病院前もあります。救急救命士とドクヘリ、ドクターカーが救急の両輪として切磋琢磨(せっさたくま)していければと思います。
希望見いだせる地方会に
学会のテーマは医局のみんなで考えて決めたものです。救急に限らず、都会と地方では医療が違うし、これからもますます違ってくるだろうから、中国および四国地方全体に当てはまると思いました。山口県で起こっていることは四国でも山陰でも起こっていることで、困っていることをみんなで出し合って、見つめなおして、落胆するのではなく、希望を見出せたらと思います。
救急の道に進んだ理由
私は鹿児島県の出身で、3歳くらいから気管支喘息(ぜんそく)で病院に通ってばかりいました。大学生になっても治らなかったため、呼吸器内科の医者になろうと思っていましたが、医学の進歩はすごくて、ほとんど発作が起こらなくなったんです。だから今度は、発作を起こして救急車で運ばれてくる人を診たいと思ったんです。
山口県の印象
鹿児島出身の私から見て、山口県の人は非常に穏やかで、礼儀正しい印象があります。医療を提供する側からすれば、患者さんが医療者をとても尊敬してくれているように感じます。そのような県民性があるから救急もやりやすいんでしょうね。
研修医に伝えたいこと
私が学生の時に、ある内科医から授業で「いつか母校に恩返しをしなさい」という言葉を教わりました。それを今も信条として持っているんです。医者になるためにいろいろな苦労はあるだろうけど、支えてくれたのは地域の人たちだということを忘れてはいけないと思います。鹿児島に帰らなかった理由はそれもあります。自然に山口県の影響を受けたんです。若い医師は、目の前にある課題を解決し、それを積み上げて次の頂を目指す歩き方を選んでほしい。いろんなノイズに惑わされず、まずは君の目の前のことをやろうや、と声をかけてくれる先輩や上司に早く出会えたらと思います。