患者への思いと熱意が詰まった新病院でイメージの変化を実感
精神科病院を見る世間の目を変えたい
私が生まれてまもなく、父がこの精神科病院を開業しました。患者さんの中には、私をかわいがってくれる人がたくさんいました。私の子守りは、患者さんがしてくれていたのです。
ところが、高校生になったとき、同級生の1人が、私をその病院の子どもだと意図しないまま「悪いことをすると、つかさ病院(旧病院名)に入れるぞ」と言ったのです。その時、世間はそういう目で見ているのだ、と気が付きました。
私は患者さんに遊んでもらって育ち、「患者さんは自分を守ってくれる人」という気持ちがあった。ですから、世間にある負のイメージをなるべくなくしたい、という思いがずっとありました。それが、この病院が今の姿になった、もっとも大きな理由だと思います。
192床すべてが個室自殺防ぐ工夫を随所に
当院は2008年に建て替えました。全192床、すべて個室です。
現代の日本は核家族が多くなり、それぞれ自分の部屋を持つようになりました。精神科病院は、治療をする場所ですが、自宅や職場に戻るための準備・練習の場でもあります。ですから、入院する部屋も個室がいいだろうと考えたのです。
個室化でもっとも心配なことが、自殺です。その点には、細心の注意を払いました。
死角を減らし、病院内の施設は、ドアノブやドアにひもをかけられないようにしたり、かけたひもに体重をかけたらドアが破損するようにしたり。さらに入院治療をする際には、「ご入院の患者さんへのお願い」という書類にサインをしてもらうことにしました。
書類には、一般的な「治療中は医師、看護師の指示に従ってください」などの文言のほか、病院内の施設や設備を本来の目的以外で使用すると、設備が破損するように造っています、という主旨の一言を入れています。
自殺しようとする人は、ひもをかける場所の強度が気になります。そこに、この一文があることで、自殺しようという気持ちのストッパーになると考えました。
さらに自殺予防のため、勉強会にも力を入れています。病院内のそれぞれの職種が対象。他職種の取り組みや工夫についても学びます。
昼休みや終業後の30分ほどを使うので、強制参加ではありませんが、努力した人は評価したい。そこで院内の資格として認定しています。
ハードとソフト、両面からの対策の結果、自殺は未遂を含め、かなり減少しました。
早期退院口コミ受診も増加
環境療法、薬物療法、そしてリラクゼーションとしてのサウナ療法も取り入れ、これは患者さんから非常に好評です。
ルールさえ守ってもらえば、リハビリや散歩なども自由にできます。入院して1カ月ほどたてば、患者さんは自分から運動などをされるようになりますね。掃除や分別してのゴミ捨ても、自分でしてもらっています。
192床で年間320人が入院し、同じ数が退院していきます。長い期間入院すると、家族のところに帰りにくくなりますから、早期退院を私たちも目指しています。
新病院になり、「入院したら退院できない病院」というイメージから「退院できる病院」に変わってきたと感じます。そのため、患者さんの口コミで早期に受診する方が増え、良い状態のときに治療をさせてもらえるようになっているという実感もあります。
これからの病院は、選ばれる時代です。結果を出す病院、出している病院として評価され、多くの人に選んでいただければ、やっていく甲斐があると思います。