天草市の「地域医療の最後の砦」でありたい
天草市は2006年に2市8町が合併し、誕生した。天草市病院事業は、旧市町が有していた公的な病院・診療所などを引き継いだ。牛深市民病院(150床)、栖本病院(70床)、新和病院(40床)、河浦病院( 99床)、そして御所浦診療所、御所浦北診療所、御所浦歯科診療所を運営する。同事業の管理者である永吉正和河浦病院名誉院長に話を伺った。
―事業の特色を教えてください。
第一の大きな特色としては、ひとつの市の中に4病院と3診療所を有していることだと思います。全国の自治体でも珍しく、他地域にはないかもしれません。
2006年の合併で、天草市病院事業は旧1市4町にあった施設を引き継いでいます。かつて、この1市4町では、それぞれの地域での民間による医療の提供が難しかったことから、当時の首長の方々が公立病院の設立に踏み切りました。
合併後、熊本大学や、天草市医師会など外部の有識者を交えた議論の末、2009年3月に「第1期天草市病院改革プラン」を策定。翌2010年4月から、4病院については地方公営企業法の全部適用とすることになり、私が初代の病院事業管理者に就任しました。
当初は赤字でしたが、病床の再編や24時間断らない医療などを柱に、それぞれの病院長の協力を得て懸命に経営改善に努め、2014年には約4億4千万円の剰余金を持つまでに回復しました。
―今後の課題を教えてください。
今後の問題点としては4つあります。1つ目が医師の確保です。医師がなかなか集まらない理由は、島であること、熊本市から遠いことなどが考えられます。
常勤医師の不足は、経営だけでなく、訪問診療や救急受け入れ、各種健診の体制など、地域の医療を担う市立病院の役割にも影響を及ぼすため、最重要課題です。
特に整形外科の医師が足りていません。熊本大学や自治医科大学医師の派遣の依頼も行う一方で、天草市は、医師修学資金などを整備しました。これまで3人が利用しています。いずれ地元に戻って来てほしいと思います。
2つ目は、患者数の減少です。天草市の人口は減少し続け、合併前の2005年は9万6千人余りでしたが、2016年2月現在で約8万5千人です。これに伴う患者数の減少は収益に大きな影響を及ぼすため、大変危惧しています。
3つ目は、薬剤師や看護師などの医療スタッフの確保。4つ目は、今後の診など報酬改定や交付税算定などの見直しです。経営的に黒字とはいえ、一般会計からの繰り入れがあっての結果ですので、交付税の動向が気になります。
―今後の病院運営については。
現在、団塊の世代が後期高齢者となる2025年を見据えて、病床数削減を狙いとする「地域医療構想」の議論が始まっています。県が示した推計を基にすると4病院は、単純計算でも、175床削減し、138床にしなければならないということになります。
熊本県には、自治体病院が20ありますが、制度や経営だけをもとに公立病院の縮小や統廃合に向けた議論はできないと思います。少なくとも私たち天草市立の4病院3診療所は「地域医療の最後の砦」でなければならないと思います。住民に「やっぱり近くに公立病院があって良かった」と言われ、たとえ赤字が出ても「住民が納得する赤字」だと思われる、そんな公立病院を目指すべきだと考えます。
―河浦病院では、名誉院長として現在も臨床で活躍されています。
回数は減りましたが、当直も行います。元々は小児の心臓外科が専門でしたが、学生時代からアメリカでの臨床を希望しECFМG(EducationalCommission of ForeignMedical Graduate)という試験に合格して、アメリカやカナダでは成人の心臓外科や麻酔科にも携わりました。
天草は美しい自然、そして海の幸にも恵まれた大変魅力ある町です。世界遺産を目指している"海の教会"とも言われる河浦町の﨑津教会でも知られています。
地域医療を志すという医師の方にはぴったりの環境だと思いますので、この河浦病院を含め天草市の市立病院にぜひお越しください。