目指すは"アクティブ福大病院"
2015年12月、福岡大学病院の新病院長に、井上亨・同大学脳神経外科主任教授が就任した。就任から4カ月余。目指す病院像、取り組みなどを聞いた。
福岡市には、九州大学病院、福岡大学病院と2つの大学病院があり、それぞれに役割があります。当院としては、医師会とタッグを組んで、地域に貢献したい。そして、アクティブな大学病院を目指したいと思います。
□救急医療
これからは、救命救急センターと総合診療部が協力し、開業医の先生からの紹介患者も救急搬送されてくる患者も「絶対に断らない」。トリアージナースを置き、対応を一本化。病床と、各診療科の空いている枠、医師を最大限に活用します。
逆紹介も強化します。大学病院の使命である手術や難しい治療は、この病院でしっかりと行い、それが終わったら速やかに地域の開業医の先生に任せる。当たり前の医療を、きちんとやる。そんな実効が伴う大学病院にしていきます。
□最新医療
ロボットスーツHALを使ったニューロリハビリテーションに2011年から取り組んでいます。手術支援ロボット「ダヴィンチ」は最新の機種を導入。移植医療にも、積極的に取り組んでいきます。
昨年秋、医療事故調査制度が施行されました。この制度によって、アクティビティーが落ちることが懸念されています。しかし当院は、みんなが元気を出し、積極的に新しい治療に取り組めるような病院でありたいと思っています。
□人材育成
今までは、脳神経外科のことだけ考えていればよかったのですが、今は、そうはいきません。
病院長になってから、事務部門や看護部門、検査部門など各部署の職員に、「若手が伸びる病院にしてほしい」と伝えています。頑張っても同じという状況や年功序列だと、どこの部署もなんとなくよどんでしまうでしょう。
やる気のある人が努力できる環境があり、さらに、その頑張りが評価されるような職場でなければと思っています。
福岡大学は総合大学です。さまざまな学部がありますから、病院職員は積極的に他学部へ出向き学んでほしいと思いますし、そうする人を支えられる職場であるべきだと思います。
□課題
病院の本館が老朽化しています。2011年に新診療棟が完成しましたが、本館は1973(昭和48)年の開業時のまま。市内の大きな病院と比較して、もっとも古くなっています。
福岡市地下鉄の駅から直結し、博多駅や福岡空港からも近い。この立地を生かすため、そして災害拠点病院としての機能を果たすためにも、建て替えが必要です。大学執行部にお願いしていますし、山口政俊新学長もわかってくださっていると思います。
この春には、前執行部から引き継いだ事業として、外国人や自由診療を中心としたクリニックを、JR博多駅前に完成する「KITTE博多」内に開設します。
□若い世代へのメッセージ
この病院は、高度医療を提供し、開発研究し、研修する「特定機能病院」です。ただ救急医療も担っていますから、その役割をしっかり果たすためには、多くの若手に大学に残ってもらわなければなりません。
医師になってからの最初の何年間かは大学に残り、きちんと論文が書けるようになった後に、地域に出ていく形が望ましいのではないでしょうか。
若い医師を離島に送るという取り組みもありますが、離島で本当に望まれているのは、経験豊富で、患者の状態をしっかり見極められる医師。「この人は手術をしなくても大丈夫」「この人は直ちに大きな病院に送らなければならない」と的確な判断ができる医師だと思います。
若い人は、ある時期、家に帰る時間も考えず、頑張らないといけないと思います。最初の10年は、自分のために必死になって、寝ずに勉強する時期。次の10年は、体力もまだありますし、経験豊かになってきますので、しっかりと患者さんの治療に取り組む時期です。そして、最後の10年は人を育てる。自分だけ上手になっても駄目なのです。
中でも大切なのが学生の教育でしょうね。私は、「しっかり遊べ」「何科に行ってもいい。真剣に取り組め」と伝えています。
医師が病気のことに詳しいのは当たり前。でもそれだけでは不十分です。私は脳神経外科医ですから、これまでに多数の頭や脊椎脊髄の手術をしています。手術をする前に「あなたは脳腫瘍で、死ぬ確率は何%」などと、機械的に言う医師に、患者や家族は手術を任せようと思いますか。
安心して治療を受けてもらえるようにするのも、医師の力量です。それを身につけるために、学生時代にしっかり遊ぶこと、真剣に何かをすることは、必要だと思っています。
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