自分の考えをしっかりまとめ、家族で話し合っておくことです。
この人になら聞けるということがある。
人の数だけ死があって、人の数だけ感謝や涙や心残りがある。35年間で8,500人をみとった経験から、本人あるいは家族が常日頃、どのような心構えで、どんな関わり合いを持ち、何を準備しておけばいいのか。そこをまず聞いた。
それこそ患者さんも家族も十人十色ですから、画一的な答えはないと思います。
自分はやはり病院で最期を迎えたいと言われる方がおられるのも事実です。当院のホスピス病棟は3病棟・71床あり、満床に近い状態が続いています。すなわちニーズがあるんですね。
統計によれば、家で最期を迎えたいと思われる方が半数以上おられるようです。でも実際に在宅で亡くなる方は10数%くらいです。これにはいろんな理由があります。
当院に入院された方で、ほっと安心したような表情をされる方も結構おられます。他方、入院している方で、やっぱり家に帰りたいと言われることもある。死を前にして、患者さんの気持ちが揺れ動くのも当然のことです。入院して常に医療従事者がそばにいてくれるというのは、大きな安心感につながります。また、家族に迷惑をかけたくないという気持ちもあるでしょう。
だから、まずは常日頃から、自分の最期について、しっかりと考え、見つめることが大事だと思います。自分はどのように最期を迎えたいか。そこをほとんどの人が避けています。死を語ることを恐れている。夫婦や親子で、日ごろから自分の最期のイメージを伝えておいたほうがいい。なぜなら人は、まわりの方々の手伝いを受けながら最期を迎えるわけで、その最たる相手は家族です。その家族が、各々の死について、一回きりとかではなくて、よく語り合っておくことが必要でしょう。そしてエンディングノートなども含めて整理をしておいたほうがいいです。さらには誕生日が来るたびにそれを見直すのもいいでしょう。
その作業が大変大事です。時が迫って慌てるのでは、家族間で意見がばらばらになりかねません。そして、献体やアイバンク登録などを、本人だけで決めてしまうのではなく、家族と相談し、「死への備え」をしておくことが大切といえます。自分の最期について、心の備え、必要な準備をする、ということです。
それに基づいて、ではどこに、誰に相談するのがいいのかについては、各市区町村には地域包括支援センターがありますし、経験豊富な医師や看護師もいるでしょう。そして忘れてはならないのがケアマネジャーで、医療や介護をオーケストラに例えるとコンダクターのような存在です。
病気を治せば一時的に問題は解決されるでしょう。でも人は必ず老いていきます。その意味において、人を診る医療のあり方、ホスピスケアの意味が、いろいろな現場に少しずつ浸透してきました。
ホスピスをやっていますと「ホスピタリティー」=人をあたたかくもてなす気持ちがいかに重要か、ということがわかります。いくら学歴や業績があると言ってみたところで、残念ながら末期状態の方に対しては無能な医者なのです。目の前にいるのは、極限状態の弱い人で、そこに必要なきずなは、温かいもてなしの心を軸とするコミュニケーションです。ホスピスで働くスタッフにまず求められるのはホスピタリティーであり、それを通じて患者さん家族との癒やし癒やされる関わりが生まれるのです。
ですからやはりスタッフとして、ホスピタリティーの部分を育むというか、意識して、少しずつ体得していく。お互いに切磋琢磨(せっさたくま)して育てていく。そこに魅力や働きがいが見つかれば、スタッフ自身の成長につながると思います。
栄光会では超高齢・多死・人口減少社会を見越して、①栄光会「地域支援センター」の設置②地域リハビリテーション活動支援事業の受託③志免西・地域協働ネットワーク活動の推進など、志免町や地域、小中学校区での活動に取り組む準備をしています。
さらに2009年5月に設立された「ホスピス緩和ケア・ネットワーク福岡」は、2015年6月1日現在で76施設(クリニック・診療所17、ホスピス緩和ケア病棟14、訪問看護ステーション18、介護施設18、その他の施設=歯科1、調剤薬局8)を有し、これからますます重要な役割を果たしていくことになります。