最適で良質な医療の提供が使命
●病院の特徴を教えてください。
当院は、2014年の4月に、それまでの三島社会保険病院から独立行政法人地域医療推進推進機構(JCHO)三島総合病院へと、経営母体が変わりました。
旧三島社会保険病院時代から、地域で私たちに求められている役割は、主に急性期医療、介護、健診の3つです。
それらに加えて、JCHOでは地域医療機能推進の役割を果たさねばなりません。地域医療機能とは何か。それは1つの病院だけで医療を完結させるのではなく、地域の病院と病院をつなぐ要になるという考え方です。しかし、これは社会保険病院時代からやっていた取り組みなので、大きな混乱もなく、現在に至っています。
私たちが目指しているのは、国際的な業績を上げたり、最先端治療をしたりということではありません。
駿東田方二次医療圏の中心である三島市における唯一の公的病院が当院です。この地域に最適で良質な医療を提供することこそが当院の使命だと思っています。
●今後の課題はありますか。
当院が抱える最大の悩みは医師不足です。中規模病院への医師派遣が減ってきているのが、その要因です。
若い医師にとっては当院くらいの規模(163床)の病院は、たくさん経験が積めるので、とても勉強になると思います。しかし、東京や大阪などの大都市から地方の病院に来るのは、やはり抵抗があるようですね。大都市病院での勤務条件が、次第にワークライフバランスを重視するようになってからは、ますますその傾向に拍車がかかりました。
静岡県は10万人あたりの医師数が170人と全国平均200人超に対して約30人不足しています。これを県人口300万人として単純計算すると1000人くらいの医師が不足していることになります。
県西部は浜松医科大学があり、中部は静岡県立総合病院があるので、なんとかしのげている状況ですが、当院がある県東部は医師不足が顕著です。東京からそれほど遠くないのですが、なかなか箱根の山を越えてきてくれませんね。
看護師やメディカルスタッフについては幸いなことに比較的充足しています。
●医師としてのこれまでの歩みを聞かせてください。
私は小学校3年生のときにシュヴァイツァー博士の伝記を読んで感動して、医師になろうと思いました。
医学部入学当初、世界初の心臓移植が行われたこともあり、心臓外科に興味があって、当時の心電図の教科書をマスターするくらい勉強しましたね。
ではなぜ脳神経外科に進んだかというと、郷里の救急病院での見学実習で臨床現場を目の当たりにするうちに次第にひかれていったんです。医学部2年生のときには脳外科にいくことを決めていました。
私が最初に院長になったのが48歳。それから現在に至るまで、さまざまな病院の院長を務めてきました。しかし、院長になるまでは脳外科に関する数多くの研究、臨床に打ち込んできました。高度成長期の真っただ中、寝る間も惜しみ、馬車馬のように働いていたことを覚えています。
●若い医師に伝えたいことはありますか。
現在、医師になる人たちは、厳しい受験戦争を勝ち抜いてきた人たちばかりだと思います。しかし、私はそういう人たちばかりが医師になることが果たして良いことなのか、一抹の不安を感じています。
医学部に入ることは昔も大変でしたが、現在は、その比ではありません。しかし、勉強したからと言って医師として優秀かというと必ずしもそうではないんです。
高校の先生は、進路指導において成績優秀な生徒たちに医学部受験を勧めているそうですが、本当に患者さんのために医師になりたいと思う人にこそ医学部の門を叩いてほしいと思っています。現在、医学部では社会常識についての教育が十分になされていません。勉強だけができる人が医師になるのは問題ではないでしょうか。
私がもっとも危惧しているのは、医師をスマートな職業だととらえている若い医師が、実に多く存在することです。しかし、それは医療の本質ではありません。本来の医師の仕事とは、もっと泥臭いものなのではないでしょうか。
私は最先端医療を否定しているわけではありません。医学の進歩に最先端医療が果たす役割は限りなく大きなものです。ただ、必ずしもそれが最善の医療だとはいえないと思うのです。ときには目の前にいる患者さんの命をいかに救うかということに心血を注ぐことも大事なことではないでしょうか。
医師とは自分のためではなく、患者さんのためになにをするかが重要です。打算で考えるのではなく、物事に対して真摯(しんし)に向き合う。そういう姿勢こそが医師には求められるんです。
三島総合病院
静岡県三島市谷田2276
TEL:055(975)3031