地域の外科治療を支える人材育成が使命
■ブラックジャックと恩師の姿に憧れて
外科医を志したのは、幼いころ、外科医だった伯父からいろいろな手術の話を聞いて「すごいなぁ」と憧れたことがきっかけです。高校生のときに連載を開始した、手塚治虫の漫画「ブラックジャック」にも大きな影響を受けました。
かっこいいでしょ、心臓外科医って(笑)。
私の恩師である鈴木章夫先生は、冠動脈外科医であり、心臓のバイパス手術の権威としても当時から有名な方でした。
1958(昭和33)年に渡米された先生は、1974年に帰国後、順天堂大学の教授に就任されました。先生に弟子入りしたかった私は、1981(昭和56)年、順天堂大学の胸部外科に入局したんです。その後、東京医科歯科大学に移られてからも、先生のもとで25年間やっていました。
「120%やる。とことんやる」というのが持論で、何をやっても結果がすべて。言い訳は無用という厳しい先生でしたが、多くを学びました。
■心臓外科の魅力
人間の体を車に例えると、「心臓=エンジン」で、心臓外科治療というのは「修理」のようなもの。エンジンの修理(手術)がうまくいけば、それまでよりも快適に走ることができます。今まで息苦しくて坂を登れなかった人、スポーツがしたくてもできなかった人のADL(日常生活動作)が改善されるんです。
心臓は手術後、すぐに動かさなくてはならない臓器ですから、全身の管理にも気を使います。大変ではありますが、やりがいのある仕事です。
■教育者として思うこと
全国的に外科医不足と言われています。かつては外科医というと医師の花形というイメージを持たれた時代もありました。しかし、一人前になるのに時間がかかるし、実際の現場は厳しいし、きついこともあります。
最近では、自分のライフスタイルを保ちながら働きたいと思う人が増えたことも、医師不足の一因なのかもしれませんね。しかし、私の教室には、私が若いころに抱いた志と同じもの、もしくはそれ以上のものを持って学んでいる人たちが集まっています。
かつて私もそうでしたが、「一人前の心臓外科医になりたい」という夢を追い求めてほしいと思います。「どっちが楽だ、得だ」と、そろばん勘定するのではなく、やりたいと思ったことを、とことんやってほしい。
一人前になるまでの修練というのは厳しいものです。何もしないで一流になれるものじゃない。すべては自分次第です。そういったことを教えながら、この地域で循環器の外科治療を支える人材を育成することが、私の使命だと思っています。
■「神の手を持つ医師」なんていない
医師として心がけていることは、患者さんと同じ目線で同じ立場に立って考えることです。もし、目の前の患者さんが自分の母親だったら、兄弟だったらどうするか、本当にこの治療法で良いだろうかと考えることです。
当たり前のことかもしれませんが、手術というのは、自分の野心や興味でやっちゃいけない。人間の体を切って罪に問われないのは外科医だけですし、それにはちゃんと理由があります。その事実に真摯(しんし)に向き合い、常に正直に、公正に考えなければならない。患者さんの体を傷つけるということは、それだけ覚悟のいることでもあります。
それから、生まれながらに「神の手を持つ医師」なんて存在しません。自分の技量や知識を常に最先端を保つためには、いかに修練を積むかが大切なのです。
若手が育ったら、いつでも喜んでメスを置きたい。それくらいの覚悟を持って手術に臨んでいます。
■安全かつ確実な高品質の医療提供を目指して
当大学病院が目指しているのは、世界水準で質の高い医療の提供です。
2014年6月からは経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)を開始しましたし、ステントグラフトを用いた大動脈瘤(りゅう)の治療も積極的に行っています。
植え込み型の補助人工心臓については、すでに3例を実施し、現在も移植待ちの入院患者さんがいらっしゃいます。
5年前に導入した、低侵襲心臓手術(7~8cmの小さな傷で行う手術)も軌道に乗り、手術件数は私が赴任する前に比べて2倍ほどに増えました。
心臓外科は、ある程度大きな病院にしかありません。これからも、質のいい医療、患者さんの気持ちを鑑(かんが)みた応対で全人的医療を行っていきたいですね。
筑後地区ではもちろん、福岡県全域においても、患者さんから選ばれる病院を目指したいと思っています。
久留米大学医学部久留米市旭町67
TEL:0942-35-3311(代表)