いかに地域に貢献するかを念頭に
愛知県瀬戸市山口地区で、177床(医療療養病床)を運営する医療法人宏和会やまぐち病院。同法人は、急性期のあさい病院やあさいクリニック、介護関連施設を擁し、瀬戸地区の地域医療に貢献する。
2013年に院長に就任した浅井病院長に今後の展開などの話を伺った。
あさいクリニックは姉、あさい病院は兄が運営しており、私を含めたきょうだい3人とも医師です。私は循環器内科、姉は糖尿病内科、兄は心臓外科が専門ですが、3人で話し合ったわけではなくそれぞれが好きな分野に進みました。
祖父の時代から代々医師で、父が亡くなった後に、姉弟でそれぞれ戻って参りました。幼いころは自宅にある人体の解剖が掲載されているような医学書を見るのが大好きな子どもでした。そのような環境ですから医学が大変身近でしたので、いずれは自分も医者になるのだと自然に思っていました。
前任の愛知医科大学や公立陶生病院では、虚血性心疾患を専門としており、急性期医療の最たる分野に取り組んでおりましたので、こちらに戻って180度違う慢性期医療に取り組むことになったら、自身のモチベーションを維持できるのだろうか、といった不安が最初はありました。
当院では、入院患者さんの7割くらいが病院で亡くなることになります。治療が困難で回復が見込めない患者さんやそのご家族に対してのケアや、最期をいかに幸せに送ってあげられるかなどは非常に難しいですが我々の重要な役割だと実感しています。
先日、ある食道がんの患者さんで、前医では絶食となっていましたが、どうしてもご飯が食べたいという希望があり、リスクを話した上で、一日一食ですが食べられるようになりました。その時の患者さんの笑顔やご家族の喜んでいる姿は今でも忘れられず、これが慢性期医療のだいご味だと思いましたし、やりがいを感じています。
―貴院の地域での役割、特長は。
愛知医科大学病院、公立陶生病院といった急性期の後方支援病院として、どういう患者さんであれ「断らない慢性期病院」を目指したいと考えています。このためには、疾患や重症度に関わらず引き受ける必要があります。以前は人工呼吸器を装着した患者さんや透析患者さんはお断りしていたのですが、院内で医師をはじめ看護師など人工呼吸器や透析の勉強会を重ねる事で引き受ける事ができるようになり、スタッフ皆が自信を持つ事ができました。
また瀬戸市は在宅医療が盛んな地域なんですが、在宅支援病院として周りの在宅医さんとの連携も強化しています。
―課題は何でしょうか。
慢性期医療に対して、これまで急性期医療を退いた年配の医師が担当するというイメージを持っていました。しかし実際に自分が慢性期医療を経験して思ったのは、「急性期医療は疲れたから慢性期医療に」という気持ちでは難しいということです。私としては働き盛りの同年代の医師こそ慢性期医療をやって欲しいと思っていますし、私と一緒に汗を流してくれる医師を探しています。このためには、慢性期医療のやりがいを伝えていかなければならないと思います。
―医師以外のメディカルスタッフの確保はいかがですか。
言語聴覚士などのセラピストや看護師は確保できていますが、介護福祉士はやはり人手不足です。2年前から、患者さんの満足度アンケートに加え、職員の満足度調査アンケートも始めました。どういうところで困っているのかなど具体的に聞いています。意見を聞いてくれて有りがたいという声もありましたので今後は具体的な改善に生かします。
―今後の取り組みは。
瀬戸市内に約1万坪の土地を取得しまして、2017年春の開院予定で、新築移転を計画しております。新病院では、自宅に帰れない患者さんのために家にいるような雰囲気を感じられるようなスペースを多く設けたいと考えています。またあさい病院で現在行っている小児リハビリテーションを新たなやまぐち病院で行いたいと思っています。ご高齢の方が多い慢性期の病院の中に、子どもたちがいるということで病院の雰囲気が明るくなると思いますし、活気のある楽しい病院になるのではと思っています。
最終的には、病院は地域に必要とされなければ生き残っていけません。いかに地域に貢献するかが、一番大事なところで、それには地域のニーズをしっかり見極めることが重要です。いろいろなニーズに応えられるよう私自身も含めて病院の実力を上げていきたいと思います。また私が今、最も力を入れている在宅医療をさらに充実させたいと思っています。当院のように在宅医療と慢性期医療が連携していることは、大きな強みになると思います。他にも緩和ケアや、認知症の患者さんへの対応もできるよう準備を進めています。